「このチームでトロフィーを勝ち取っていきたい。世界でもベストなチームと言われる存在になりたい」

 

 

 南アフリカ代表のスクラムハーフとして2019年ラグビーW杯日本大会優勝に貢献したファフ・デクラークがリーグワンの横浜キヤノンイーグルスに加わった。

 

 先のコメントは入団記者会見の時のものだ。

 

 横浜Eは、1980年創部の新しいチームだ。リーグワンの前身のトップリーグでは5位(20-21シーズン)が最高位だった。沢木敬介監督は来シーズンの目標を「TOP4」に

置く。

 

「彼はW杯で優勝しているチームの一員ですし、ウイニング・カルチャーを知っている。勝つために必要なものをみんなに伝えてくれると思っています」

 

 デクラークには“猟犬”のイメージがある。身長170㌢と小柄だが、大きな“獲物”に対しても気後れしない。

 

 忘れられないシーンがある。W杯日本大会準決勝でのウェールズ戦。9対6で迎えた後半3分、相手のパントキックをタッチライン際で待ち構えていたデクラークは、珍しくキャッチに失敗した。

 

 このミスに苛立ったわけではあるまいが、直後、デクラークは手荒いタックルをウェールズの選手に見舞った。これがきっかけで、ちょっとしたもみ合いとなった。

 

 そこでデクラークを抑えようと割って入ってきたのがウェールズの巨漢ロック、199㌢のジェイク・ボールだ。身長差実に29㌢。まるで大人と子供である。

 

 それでもデクラークはひるまない。襟を掴まれながらも抵抗し、激しくやり合った。そのシーンを英紙「ミラー」は<まるで“ダビデとゴリアテ”のようだ。デクラークがそのファイティングスピリットでチームを活気づけた>と称えていた。結局、このゲーム、南アフリカが19対16で勝利した。

 

 準々決勝では日本代表も“猟犬”にしてやられた。司令塔でもあるデクラークの作戦は「なるべく日本にボールを持たせない」こと。

 

 前半24分、スタンドオフの田村優がパスを放った直後に強烈なタックルを見舞った。反則こそ取られなかったが、ノーボールタックルと判定されてもおかしくないプレーだった。南アのプレッシャーにより持ち味の「テンポの良さ」を失った日本は、ノートライに封じられ、3対26で敗れた。

 

 同じポジションの流大のデクラーク評を紹介しよう。

「ディフェンスのところで、嫌なプレーをしてくる。僕らの視界に入ってきて、判断を誤らせようとした。そうやってプレーの精度を落とさせることでチーム全体のパフォーマンスにも影響を与えようというのが、彼の狙いなんです」

 

 新型コロナウイルスの影響もあり初年度のリーグワン(1部)は観客動員の面で伸び悩んだ。1試合平均1万5000人を目標としていたにもかかわらず、4200人程度にとどまった。

 

 デクラークのプレーは観る者の感情を刺激する。ラグビーファンならずとも一度はスタジアムで観てもらいたい選手である。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2022年8月21、28日合併号に掲載されたものです>

 


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