華麗なる空中殺法で一世を風靡したプロレスラーの武藤敬司が2月21日、東京ドームで引退試合を行う。

 

 

 チケット代はVIP席50万円、ロイヤルシート(2列目)10万円とプロレスの試合としては破格だ。両席とも、ほぼ発売と同時に完売したというから、武藤の人気のほどがうかがえる。

 

 新日本プロレス入門同期の橋本真也(故人)、蝶野正洋と「闘魂三銃士」を結成し、売り出した。周知のように、これは師匠であるアントニオ猪木の現役時代のニックネーム「闘魂」に、アレクサンドル・デュマの小説「ダルタニャン物語」に登場する「三銃士」を組み合わせたもの。武藤は2人を「ライバルというより運命共同体みたいな存在だった」と語っていた。

 

 武藤の代名詞と言えば、トップロープから宙を舞い、仰向けの相手に襲いかかるムーンサルトプレス。その飛型姿勢の美しさは、さながら絵画の中の猛禽のようだった。

 

 しかし、この大技の代償として武藤は両ヒザに深手を負った。現在、医師からは使用を禁じられているが、引退試合に封印したままでは、画竜点睛を欠くことになる。どうする武藤!?

 

 個人的に関心があるのは、武藤の4の字固めへのこだわりだ。“白覆面の魔王”と恐れられたザ・デストロイヤーが力道山相手に披露して以来、この国では最もポピュラーな必殺技となった。昭和世代で、この技をかけたりかけられたりした経験のない男性はいないのではないか。

 

 芸達者な武藤は、この技の卓抜した使い手でもある。本人が「忘れられない試合」のひとつにあげる髙田延彦戦でギブアップを奪ったのも、この技だった。

 

「オレは米国でリック・フレアーに足4の字でよくやられていた。フレアーは、この技ひとつで20分でも30分でもストーリーをつくり上げることができた。そんなフレアーに対し、オレには“羨ましいな”という思いがありましたよ」

 プロレスをアートと定義する武藤。最後に、どんな芸術作品を披露してくれるのか。

 

<この原稿は『週刊大衆』2023年1月30日号に掲載されたものです>

 


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