スタートダッシュに失敗したチームの中で、この男だけは開幕から絶好調だ。
 スワローズ青木宣親のバットから快音が止まらない。4月26日現在、打率3割9厘7厘はダントツのリーグトップ。イチローを超える2回目のシーズン200安打達成へ視界は良好だ。

 青木は入団2年目の05年、202安打をマークし、首位打者に輝いた。06年もリーグトップの192安打。この年は41盗塁を決めて赤星憲広(タイガース)が5年間にわたって保持してきた盗塁王のタイトルを奪った。
 開幕前、野球評論家の西本聖氏から、こんな裏話をきいた。
「以前、彼にこう言ったことがあります。“なぜリードする際、右足を人工芝にかけないの?”って。要するに帰塁することを中心に考えていてリードが小さかった。これではバッテリーにプレッシャーを与えることができません。リードが広がってから、彼の盗塁は増え始めました」

 ここにきて課題といわれた選球眼も良くなってきた。
 202安打を放った05年は三振が113で四球はわずかに37。だが今季はここまで三振11、四球18と両者は逆転している。打ってよし、走ってよし、選球眼もよし。昨年は世界一に輝いたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)にも日本代表の一員として出場した。いまやNPBを代表するリードオフマンといっていいだろう。

 ところが、この4月22日から“人事異動”で3番に移った。その理由を古田敦也兼任監督は、
「今一番いいのが青木。3、4番の前にランナーがたまれば点が取れる」
と語った。不動の3番打者だった岩村明憲(デビルレイズ)が抜けたチーム事情を考えれば、致し方あるまい。古田兼任監督の説明は合理的だ。

 しかし、とも思う。この国のプロ野球を見ていると、球界を代表するリードオフマンがチーム事情によって3番に移るケースが多すぎる。
たとえば80年代、リーグ最強のリードオフマンと呼ばれた高橋慶彦。赤ヘル打線のトップバッターとして、79、80年の2連覇に貢献した。
それが3番不在のチーム事情により、84年から3番も任されるようになった。腕っぷしにも自信のあった高橋は、3番打者としても成功を収めたが、あのままトップを打ち続けていたら2000本安打到達の可能性はかなり高かったと思う。

 青木に話を戻せば、古田兼任監督が悪いわけではない。岩村の抜けた穴を古田は中村紀洋(中日)で埋めようとした。しかし、フロントの返事は「NO」。
そのシワ寄せが“3番・青木”という形になったのではないか。

 ただ、モノは考えようだ。将来的には定位置に戻るにしても、3番を打った経験は青木の今後の野球人生に何がしかのメリットをもたらせるはずだ。イチローに次ぐメジャーリーグの“和製核弾頭候補”である。

<この原稿は07年5月20日号「サンデー毎日」に掲載されています>

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