「ひとに健康を、まちに元気を。」をコンセプトに、様々な活動を展開している明治安田生命保険相互会社とのタイアップ企画です。当コーナーでは、明治安田関連の活動レポートをお届け致します。

 

 

 

 

 

 

『スポーツにみるリーダーシップと地域振興』

 

 2023年12月6日、明治安田 長野支社主催によるVIP後援者会に招かれ、90分ほどお話を致しました。招待者の中にはサッカーJ3 AC長野パルセイロを運営する株式会社長野パルセイロ・アスレチッククラブの今村俊明社長、プロバスケットボールB1信州ブレイブウォリアーズを運営する株式会社NAGANO SPIRITの木戸康行社長もいらっしゃいました。今回はその一部をご紹介致します。

 

 信州ダービーは文化的資産

 

 長野県と言えば、1998年の長野冬季五輪での数々の名シーンが思い浮かびます。特に印象に残っているのがノルディックスキーのジャンプ団体戦での日本の金メダルです。

 

 2月17日、競技が行われた白馬は朝から吹雪に見舞われました。いつもなら、はっきりと確認できるシャンツェ後方にそびえる山の稜線が灰色の空の彼方にかすんで見えました。

 

 天気のいい日ならカラマツやスギの間を楽しげに渡っているシジュウカラも、この日ばかりは森の中でじっと息を潜めていました。

 

 この4年前のリレハンメル。日本は史上初の団体金メダルに王手をかけながら、最後の詰めを誤り、銀メダルに終わりました。その“戦犯”がアンカーの原田雅彦選手でした。

 

 距離にすると104メートルも飛べば金メダルだったのに、テイクオフのタイミングを間違え、97.5メートルで終わってしまったのです。

 

 4年後、その原田選手に再び試練が襲いかかります。1本目、吹雪に見舞われ、79.5メートルしか飛べませんでした。白いベールに包まれた原田選手の姿は、私の目には亡霊のように映りました。

 

 今でも忘れられないのは、第1ラウンド終了直後のシャンツェに流れた音楽です。V6が歌っていた「WAになっておどろう」という音楽ですが、とても踊る気分にはなれませんでした。

 

 もし天候があのまま回復していなければ、第1ラウンドだけの結果で順位が決まります。そうなれば日本は4位。またしても原田選手は“戦犯”として批判にさらされるところでした。

 

 しかし原田選手には、そして日の丸飛行隊には運が残っていました。天候が回復して迎えた第2ラウンド。先頭の岡部孝信選手、2番手の斉藤浩哉選手が見事なジャンプで失地を回復し、3番手の原田選手に出番が回ってきました。

 

 2.1メートルという絶好の向かい風。テイクオフのタイミングもぴたりと決まり、原田選手はグレーの空にスキー板の剣先を突き立てました。

 

 バッケンレコードタイの137メートル。空から舞い降りるような着地、いや「着陸」でした。滞空時間の長い大ジャンプで、原田選手は金メダルをたぐり寄せたのです。

 

 その直後の原田選手の“叫び”は今も語り草です。

 

「フナキ~、フナキ~、頼むぞ~」

 

 この点について聞くと、原田さんは「あれはね、皆さんが僕の感想を聞きたくて寄ってきたんです。ちょうど船木和喜が飛ぶ直前だったので“間もなく船木が飛びますよ。金メダルの瞬間を皆で見ましょうよ”というつもりが、“フナキ~”になっちゃったんです」と語っていました。

 

 その船木選手が125メートルを飛び、最後は2位ドイツに35.6ポイント差をつけての金メダル。これまで私はオリンピックで数多くの金メダルを見てきましたが、3本の指に入る名シーンだったと思います。

 

 ところで皆さん、スポーツにおいてしばしば用いられるライバル(rival)という言葉の語源をご存知でしょうか。これには諸説ありますが、川(river)だとする説が多いようです。

 

 元はと言えば、水利権を巡る争いに端を発していますが、水利権争いで、両岸の住民がいつも角突き合わせていたら、互いに疲弊し、やがて共倒れになってしまいます。

 

 そこで治水や利水に関しては互いに協力しよう、という気運が醸成され、好敵手へと昇華していくのです。競争する時は競争する。協力する時は協力する。これがライバルの理想の姿です。

 

 たとえば大谷翔平選手の話題で盛り上がるメジャーリーグを例にとってみましょう。ア・リーグ東地区のライバルと言えばニューヨーク・ヤンキースとボストン・レッドソックスです。ナ・リーグ西地区はロサンゼルス・ドジャース対サンフランシスコ・ジャイアンツの対決に熱い視線が向けられます。

 

 さて長野県に目を移すと、長野市を本拠地とする長野パルセイロと松本市を本拠地とする松本山雅という2つのJクラブが存在します。

 

 両クラブの戦いは“信州ダービー”と呼ばれ、他のカード以上の盛り上がりを見せます。ある意味、この“信州ダービー”は長野県の文化的資産と言えます。

 

 これは私よりも皆さん方がお詳しいはずですが、長野と松本は歴史が違えば文化も違います。元々、松本市は筑摩県の県庁所在地で、日本銀行の支店や信州大学の本部などが置かれています。県庁所在地の長野市に対するライバル意識も相当なものがあるはずです。

 

 惜しむらくは、パルセイロ、山雅ともに現在はJ3ということです。J3からJ2へ、そしてJ1の舞台で信州ダービーが実現することを心より願っています。


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