プロ野球に下田武三氏(故人)以来2人目の外交官出身のコミッショナーが誕生する。前駐米大使の加藤良三氏だ。
 加藤氏は2006年、日本が初代王者となったWBCの2次リーグ、日本対米国戦で始球式を務めたほどの野球通。メジャーリーグに対する知識も豊富で国際的な問題が山積する今のNPB(日本プロ野球組織)コミッショナーにはうってつけの人物と言えるだろう。

 しかし、国際派の新リーダーを得てプロ野球はどう変わるだろう……とのワクワク感が広がらないのはなぜか。球界の誰に聞いても「誰がコミッショナーになっても一緒だよ」「コミッショナーはお飾りだからね」「天下りのポストとしてこんなにおいしいところはないんじゃない?」と冷めた答えしか返ってこない。

 かくもプロ野球のコミッショナーが軽く見られるのは、NPBの体質に問題があるからにほかならない。前コミッショナーの根来泰周氏の任期が切れたのが昨年1月。その後は、根来氏がコミッショナー代行としてその任に当たっていた。
 つまり、NPBは約1年半も最高責任者が不在だった。代行でも十分だったのだ。コミッショナーとはいったいなんと軽い地位なのか。

 民主党の不同意により日銀総裁が約3週間も不在の時、新聞は「国際的な信頼を失う」「中央銀行のトップ人事をもてあそぶな」と書き立てた。日銀総裁を「通貨の番人」とするなら、プロ野球のコミッショナーは「ボールの番人」である。

 しかし「ボールの番人」の不在を嘆いたり、叱ったりするスポーツメディアは私が知る限り、皆無だった。いなくてもなんとかなるということか。それとも、コミッショナーに期待するものなどなにもないということなのか。
 加藤氏がまずもって行なうべきは、コミッショナーの威信の回復である。

<この原稿は2008年5月3、10日合併号『週刊ダイヤモンド』に掲載されたものです>

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