5月はスポーツに最適な季節。そんなこともあってか、各地で自転車イベントが頻繁に開催されている。海外ではイタリアを1周する「ジロ・デ・イタリア」が開催され、世界のトップサイクリストが凌ぎを削っている。国内でもツアーオブジャパンが開催、1週間にわたって熱い戦いが繰り広げられているし、丸の内ではスプリントイベントが開催されたり、佐渡島や東京の荒川で大規模なサイクリングイベントが開催された。そう、5月は「自転車月間」なのだ。
(写真:今中大介氏、片山右京氏ら豪華なゲスト陣。左端が筆者)
 確かに近年、国内の自転車熱は盛り上がりをみせている。スポーツ車の売り上げは好調だし、街中でもママチャリでなくスポーツ車をよく見かけるようになった。それに合わせてサイクリングイベントの数も増加中。このサイクリングイベントとは、従来のような競技志向の「レース」ではなく、タイムを競わないマイペースで自転車を楽しもうという趣のものだ。「それならお金払って走るより、自分で勝手に走ればいいじゃない」と思われるかもしれないが、自転車の楽しみは人と走ることにもある。多くの仲間と走ることは、一人や少人数で走るのとは違う楽しさを味わうことが出来るのだ。

 その高まりの中で生まれたのが「TOKYOセンチュリーライド」(主催:東京新聞、東京メトロポリタンテレビジョン、サイクルスタイル・ドットネット)。従来、交通量の少ない地域で行われる事の多かった自転車イベントをあえて都内に持ってきた常識破りなイベントだ。
 国内でも屈指の河川敷道路を持つ荒川を舞台に、5月10日に行われた「TOKYOセンチュリーライド」は、6000名にも及ぶ応募があり、その中から選ばれた約2000人が参加、盛り上がりをみせた。我々が予想していた以上に初心者層が多く、ほのぼのした雰囲気に。どうやら「レースやイベントに一度も参加したことがない」という人が多かったようだ。確かに「遠くまで出掛けるイベントに行く程ではないけど〜」という方は、近場で開催しているからこそ参加してくれている。そして、そんな人々にこういう場を提供できたことに、関係者としても大いなる喜びを感じた。

 しかし、その開催に向けては困難を極めた。詳細についてはここでは割愛するが、その原因は「スポーツとしての自転車の認識がない」ということだ。「自転車が時速20kmも出したら危ない」「併走は危険」「そんな距離を走れる人が多くいるはずがない」等々・・・。自転車を知っている人が聞くと首を傾げてしまうような話ばかり。
 ロードレーサーに乗り20km以下で走り続ける事は不安定で苦痛だし、追い風でも吹こうものならそのスピードに抑えるのは難しい。また、スポーツ車のブレーキ性能はママチャリの比ではない。そんな自転車に乗る人なら80kmという距離は無茶な行為ではなく、仲間と走っていると意外に行けてしまうのである。

 また、一般道では併走して走ることは難しい日本で、広い荒川の河川敷道路は数少ない併走して走れる場でもある。自転車の楽しみは速く、遠くに、自己の力で走れるというだけでなく、人と語らいながら走れることだ。この部分ではランニングを大いに上回る。
もちろん他人に迷惑をかけるような走りは慎むべきだが、参加者には出来る限りこの体験をして欲しかった。しかし、関係諸氏から上記のような指導を頂いたので、参加者に勧めることは出来なかったが…。スピードにしてもしかりで、随分規制の多いイベントになってしまったのが事実。だが、これが日本の一般社会における自転車のポジション、一般の方から見たスポーツサイクルへの見解なのだろう。
 
 そんな境遇の中では、このようなイベントを規制の中でもやっていくことこそが大切。それが理解を高めることにつながると考えるので、今はこの状態でも開催をしなければならない。一人でも多くの人々が、スポーツとしての自転車に触れ、その爽快さに気付く機会がなければ変える事などできないのだから。

 イベント当日は残念ながらの雨模様。それでも参加者の満足気な顔をみると、そんな気持ちは僅かでも伝わったのだと思いたい。そして、小さくて大きな第一歩だと信じたい。

 今から梅雨が始まるまでは自転車のベストシーズン。ぜひ買い物以外にも自転車を使ってみては!?


白戸太朗オフィシャルサイト

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。
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