後期が開幕して約1カ月が経ちました。富山サンダーバーズは前期に優勝したおかげで、後期は個々のレベルアップにつながる練習に取り組むことができています。選手全員の最大の目標であるNPBに上がるためには、何が不足しているのか、何を伸ばすことができるのか。そうしたことを個人個人、考えながら工夫を凝らし、改善に努めています。
 例えば昨季、本塁打と打率の2冠に輝いた主砲の野原祐也(大宮東高−国士舘大)ですが、前期はなかなか本来の力を出すことができていませんでした。そこで後期では彼の魅力の一つである長打力に磨きをかけることにしました。

 改造した点は構え方です。これまでは外国人のように大きく構えていたのですが、グリップの持つ手を少し前に出して、そこからテイクバックするようにしたのです。しいて言えば、元阪神の掛布雅之氏のような感じです。

 というのも、これまでの彼の打撃フォームはどちらかというとアッパー気味で、高めのストレートに押されていたのです。これではせっかくパワーがあっても打ち損じをしてしまいます。そこでレベルスイングにし、ミートポイントを広げることで確実性を高めたというわけです。

 実は彼を見た時から、「いつかはフォームを改造しなければ、たとえNPBに入れたとしても、修正を余儀なくされるだろうな」と思っていました。前期が不調だったこともあり、思い切って着手したのです。おかげで徐々に今のフォームを自分のものにしつつあるようで、調子も上向きです。先週末の3連戦ではNPBのスカウトが注目する中、2本のホームランを放ちました。

 しかも野原は足もあります。特に盗塁は12個を数え、リーグ3位を誇っています。長打力だけでなく、機動力も備わっている選手となればNPBへの道は昨季以上に開けてくるはずです。あとは守備力ですね。肩は強いのですが、どうもまだ捕球の仕方がぎこちない。ファンが安心して観ていられるようなプロらしいプレーができるようになってくれればと思っています。

 最近、芽を出してきたのが“代打の切り札”のポジションを確立しつつある山田晋太郎(福光高−富山国際大)です。彼はミート力に長けていて、三振が少ない好打者。代打で出場しても初球から打ちに行くことができます。よく言えば、イチローのようなタイプですね。バットコントロールに優れていて、広角に打つことができます。スタンドにもっていくパワーがあれば、バッティングに関してはNPBでも十分に通用するレベルです。ただし、守備と走塁に関してはまだまだですね。それでも全体練習の前に自らノックを受けたり、少しでも速く走れるようにフォームを修正したりと、彼は努力を惜しみません。今後が楽しみです。

 また、山田に劣らない勝負強さを発揮しているのが野手では最年少、21歳の藤岡直也(仁川学院高−城西大−一球幸魂クラブ)です。48試合で16打点という数字からもわかるように、いいところで一本が出る頼りがいのある選手です。パワーもありますし、成長著しい選手の一人ですね。

 課題は守備力。肩は強いのですが、捕球してから投げるまでがやや遅い。これは彼のプレー全体にいえることですが、体のキレがないのです。もう少し機敏な動きを見せてほしいのですが、どうもハツラツさに欠けています。NPBを目指すなら、ファンを魅了させるようなプレーが必要です。気持ちの持ちよう一つだと思いますので、今後に期待したいですね。

 さて、順位こそ北陸地区の最下位ですが、ここ7試合負けなしとチーム状態は上向きです。とはいえ、引き分けが多く、あと1本が出ていないのも事実です。昨季とは異なり、打線は長打力よりも機動力をいかした攻撃を身上としています。そのため、キャンプから重点的に取り組んできたのが走塁強化。投手のモーションを盗んだり、変化球が来るカウントを狙ったり……。出塁したら一つでも先の塁に進むため、打席や出塁した時だけでなく、ベンチにいる時から選手たちは一生懸命に相手を研究しています。こうした走塁をいかした攻撃で少ないチャンスをモノにし、守り抜く野球で後期も戦い抜きたいと思っています。

小牧雄一(こまき・ゆういち)プロフィール>
1967年5月2日、鹿児島県出身。鹿児島商卒業後、三菱自動車水島を経て91年にドラフト5位で日本ハムに入団。出場機会に恵まれなかったことから、2000年オフに退団。西武の入団テストに合格し移籍した。03年のシーズン限りで現役を引退し、翌年同球団のチームスタッフに就任。05年からは四国アイランドリーグの高知ファイティングドッグスのコーチを務め、08年より富山サンダーバーズのコーチに就任した。

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