残り11試合で、2位・高知と1ゲーム差ながら首位。好調の要因は接戦に強くなったことでしょう。勝っても負けても納得いく戦いができつつあります。前期シーズンを経て、チームの着実な成長を実感できるようになってきました。

 正直なところ、後期は厳しい戦いでした。右肩を痛めたエースの浦川大輔に続き、7月末には角野雅俊が左脇腹を痛め、長いイニングが困難に。お盆期間中に連戦があるにもかかわらず、先発2本柱を失った状態で臨まなくてはなりませんでした。

 しかし、こういうときに孝行息子は現れるものです。今季、徳島から移籍してきた倫太郎。まだ2勝(2敗)という成績ですが、先発の一員として充分、試合をつくってくれています。前期はリリーフだった彼の課題は制球力。ボール、ボールで自滅するパターンがほとんどでした。

「もう4、5点とられる我慢する。6、7回まで任せたぞ」
 先発で使うにあたり、本人にはそう伝えました。すると、気持ちが吹っ切れたのでしょうか。不思議なことにマウンド上でストライクが入り始めました。

 彼はフォームが力強い割に、ボールはさほど威力がありません。力を入れすぎるあまり、ボールが指からすっぽ抜けてしまい、チェンジアップのようになってしまうのです。今のところは、それが結果的にバッターのタイミングを外す形になっています。もちろん上のレベルを目指すには、指にしっかりとボールがかかるよう修正をしなくてはいけません。ただ、それは本人が壁にぶち当たって考えることです。現時点では、彼のスタイルを尊重しようと思っています。

 倫太郎たちが頑張ってくれたおかげで、ここにきて角野が先発に復帰し、浦川も1イニングなら放れるところまで戻ってきました。セットアッパー役として、香川から韓国人右腕のイ・チャンホを獲得し、ようやく戦力が整ってきたという印象です。

 では、この熾烈な争いを勝ち抜くには何がポイントになるでしょう。「当たり前のことを当たり前にやる」。単純ですが、これしかありません。投手なら先頭打者を四球で出さないこと。コース、高低をきっちり投げ分けること。守りでは凡ミスをしないこと。攻撃ではバントやエンドランなどのサインプレーを確実に決めること――。プレッシャーのかかる場面になると、これが簡単なようで難しいものです。

 もうひとつは「自分を信じること」。大きな試合では、こちらも相手も必死です。少しでも気持ちが揺らげば、付け込まれてしまいます。僕は西武時代、プロ2年目で日本シリーズ先発の大役を任されました。「打たれるわけがない」。緊張する気持ちを抑え、そう思い込んでマウンドに上がりました。終わってみれば結果は完封勝利。今から振り返ると、若さゆえの根拠のない自信でしたが(笑)、あれはあれで良かったと感じています。

 福岡の選手たちも1年間、環境が決して恵まれない中、よく頑張ってくれました。ここまでやってきたスタイルを信じ、残り試合をガンガン攻めていってほしいものです。とはいえ、大半のメンバーは大舞台を勝ち抜いた経験がない人間ばかり。どうしても重圧でプレーが萎縮してしまう可能性があります。そこをいかにリラックスさせるかは、僕の腕が試されるところでしょう。

 いったい、どこが最後に笑うのか。個人的には今後の展開が本当に楽しみです。おそらくファンのみなさんも同じ気持ちでしょう。勝ちにこだわりながら、緊張感の中にも余裕をもつ。チーム全体のメンタル・コントロールをしながら、1試合1試合戦えればと思っています。ここからが本当の勝負のスタートです。応援よろしくお願いします。

 
森山良二 (もりやま・りょうじ)プロフィール>: 福岡レッドワーブラーズ監督
  1963年7月20日、福岡県北九州市出身。福岡大大濠高時代は甲子園の出場経験ももつ。北九州大を中退後、ONOフーズを経て87年、ドラフト1位で西武に入団。パームボールを武器に88年には10勝をあげて新人王を獲得した。同年の日本シリーズでは第4戦で中日相手に完封勝利を収めている。93年に横浜に移籍し、95年限りで現役を引退。以降、横浜、西武で投手コーチ、トレーニングコーチを歴任した。現役時代の通算成績は86試合、14勝15敗、防御率4.21。


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