第276回 ロッキーのモデル 大巨人とNY決戦

facebook icon twitter icon

 6月26日は「世界格闘技の日」だった。今から48年前の1976年6月26日、「格闘技世界一決定戦」と銘打ち、東京・日本武道館でプロレスラーのアントニオ猪木とプロボクシングの現役世界統一ヘビー級王者モハメド・アリが戦い、15ラウンド判定により引き分けた。

 

 

 2016年に「日本記念日協会」が、この戦いの意義を認め「世界格闘技の日」に制定した。

 

 アリvs猪木戦の印象が強すぎるせいか、こちらは、あまり話題にならなかった。

 

 同日、ニューヨーク・メッツが本拠地とするシェイ・スタジアムで元ヘビー級ボクサーのチャック・ウェプナー対“大巨人”アンドレ・ザ・ジャイアント戦が行なわれた。

 

 ニューヨークのスラム街で育ち、悪行三昧の果てに少年院に送られ、長じて刑務所に服役したウェプナーは、そこでボクシングを覚える。

 

 歴史に名を残すようなボクサーではなかったが、ワンチャンスをものにしたことで人生が一変した。

 

 75年3月24日、アリに挑戦したウェプナーは、9回にダウンを奪ってみせたのだ。アリがバランスを崩したようにも見えたが、ダウンはダウンである。

 

 前年10月30日、アリはザイールの首都キンシャサで無敗のジョージ・フォアマンをKOし、ベトナム戦争への徴兵拒否で失った王座を、見事に奪還した。

 

 その最初の防衛戦の相手がウェプナー。15回TKOで敗れたものの、ザ・グレイテスト相手の大健闘は、グッドルーザーにふさわしく、世の多くのアンダードッグを勇気づけた。

 

 そのひとりが無名俳優に甘んじていたシルヴェスター・スタローン。ウェプナーのファイトに想を得たスタローンは映画「ロッキー」で主人公のロッキー・バルボアを演じ、アカデミー賞(作品賞・監督賞・編集賞)を受賞したのである。ロッキーのモデルとしてウェプナーも一躍、有名になった。だが大巨人を相手にしたウェプナーの戦いぶりはひどく凡庸なものだった。

 

 捕まえれば猪木、一発当たればアリ。東京での戦いが緊張感に満ちたものだったのに対し、こちらは試合の構成全体が雑で、最後はアンドレに抱え上げられ、場外に投げ捨てられてリングアウト負けを喫した。

 

 もっともボクシング界にアンドレほどの巨漢(223センチ、220キロ)はいない。69年8月にウェプナーがKO負けを喫したジョージ・フォアマンでも193センチ、100キロだ。やりにくかったのは間違いない。

 

<この原稿は『週刊漫画ゴラク』2024年7月19日号に掲載された原稿です>

 

facebook icon twitter icon
Back to TOP TOP