第1回 交流戦、パ高セ低の図式は変わるか?
プロ野球のセ・パ交流戦は、早いもので導入から5年目を迎える。今年の交流戦の大きな見どころはWBCを制した侍ジャパンの選手たちの直接対決だろう。先発3本柱として好投した岩隈久志(東北楽天)、ダルビッシュ有(北海道日本ハム)と、クリーンアップとして活躍した村田修一(横浜)、青木宣親(東京ヤクルト)の対戦は楽しみだ。
過去4年間のセ・パの戦いを振り返ってみると、興味深い点がある。まず交流戦を制したのはすべてパ・リーグの球団だ。2005年、06年が千葉ロッテ、07年が日本ハム、そして08年は福岡ソフトバンクが優勝した。
さらに通算の対戦成績も毎年、パがセを上回っている。05年が105勝104敗7分、06年が108勝107敗1分、07年が74勝66敗4分、08年が73勝71敗、ちなみに今季(5月23日現在)も13勝10敗1分とパ・リーグがリードしている。特に05年、06年は新規参入の楽天がパ・リーグの最下位を“独走”していた。それを考慮すれば、明らかに 交流戦は“パ高セ低”である。ちなみに、この4年間、日本シリーズでもパ・リーグの球団が3度日本一に輝いている。
[size=medium] パ・リーグが強い3つの理由[/size]
なぜパ・リーグは強いのか。第一にパ・リーグの各球団に先発の好投手が多いことがあげられる。ダルビッシュ、岩隈はもちろん、杉内俊哉、和田毅(ソフトバンク)、渡辺俊介(ロッテ)、涌井秀章(埼玉西武)などなど。
昨季までの交流戦の投手成績をみると、防御率1位(2.39)がダルビッシュ、勝利数1位(12勝)が杉内、小林宏之(ロッテ)、久保康友(ロッテ−阪神)の3名、奪三振1位(182個)が杉内とパ・リーグ勢が上位を占める。一般的に対戦が少ない投手と打者では、投手のほうが有利だ。相手の球種や球筋に慣れるのに、打者は時間がかかる。
第2に球場のサイズが考えられる。総じてパ・リーグのホームグラウンドはセ・リーグの球場よりも広く、ホームランが出にくい。選手たちにはその分、足の速さ、肩の強さ、打球を遠くへ飛ばすパワーが求められる。
球場は選手を育てる。イチロー(マリナーズ)だって、オリックス時代に本拠地が広いグリーンスタジアム神戸(現スカイマークスタジアム)でなければ、米国の野球ファンをうならせるレーザービームやスキのない走塁は磨かれなかっただろう。
第3の理由として各球団間の移動時間と移動距離があげられる。パ・リーグの球団分布を思い浮かべてほしい。北は北海道・札幌の日本ハムから、南は九州・福岡のソフトバンクと幅広い。楽天は仙台、ロッテは千葉、西武は所沢、オリックスは大阪と各球団はばらついている。移動距離と時間が長くなれば、必然的に選手たちはタフになる。いや、タフな選手じゃなければ使い物にならないのだ。
一方、セ・リーグは関東地区に3球団がひしめいている。あとは名古屋の中日、西宮の阪神、一番遠くても広島止まりだ。交流戦は各カード2連戦を繰り返す変則日程である。移動また移動の日々だ。パ・リーグより短い移動に慣れたセ・リーグの選手にとって長距離移動はストレスになるはずだ。
[size=medium] 注目したい坂本、内川の打撃[/size]
しかし、交流戦も5年目である。セ・リーグの各球団もそろそろ意地を見せてほしい。セ・リーグの球場も遅ればせながら、パ・リーグの広いタイプに近づいてきた。ヤクルトの本拠地、神宮球場は昨年より両翼91メートルから101メートルに拡張された。そして今年は広島に両翼100メートルを超す新球場(MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島)が完成した。新球場のデーゲームでは、真正面から日が照りつけ、フライが見えにくくなる。新球場で初めてプレーするパ・リーグの選手たちにはハンデとなるに違いない。
パ・リーグの好投手に対しても、毎年対戦するうちにセ・リーグの各打者は慣れてきたと思われる。交流戦でも活躍しそうなセ・リーグの打者として、坂本勇人(巨人)と内川聖一(横浜)の名前をあげたい。
坂本は目下、打率.363。イチロー以来の高卒3年目での首位打者に向けて、快音を響かせている。彼の長所は内角打ちの巧さにある。打者の泣き所であるインコースのボールをうまくさばけるため、投手は攻め手がない。そのため、昨年は苦手にしていた外角球にも今季は目がついていくようになった。
なぜ、坂本はインコースをうまくさばけるのか。それは彼がもともと左利きであることに起因する、と私は見る。利き腕が左のため、内角球に対して、バットを引く腕をうまくたたみつつ、スイングできるのだろう。昨年の坂本は交流戦で打率.209と苦しんだ。だが、今年は早くも4試合連続でヒットを重ねている。その勢いは止まりそうにない。
内川は昨季、右打者としては史上最高打率(.378)をマークし、首位打者に輝いた。彼が打撃開眼した最大の理由はミートポイントをボール1個分、手前にしたことだ。「腕が伸びきった前のポイントで打ちたくなるんですが、ちょっと我慢する。その感覚をつかんだんです」。内川はそう語っていた。
ミートポイントを手前にすれば、バットの出は遅れ、ピッチャーのボールに詰まらされる形になる。打者にとって、これほどイヤなものはない。しかし、変化球をギリギリまで呼び込めるため、確実性は増す。
「バットを出す時に右腕は出しながら、前の左腕を戻すような感覚で振る。すると、両腕の力がバンと合わさるポイントがあります。ここが一番、力の出る場所なんです。このポイントでミートすればボールは飛んでいく」
左打者全盛の時代にあって右の坂本や内川の活躍はプロ野球に新しい風を吹かせている。ミクロの視点で2人の打棒を追ってみたい。言葉では表現しきれない細かな動きをチェックできるのは、テレビ観戦の利点である。パ・リーグの投手たちに、2人の巧打者がどんなバッティングをみせるのか。これは隠れた交流戦の見どころである。
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過去4年間のセ・パの戦いを振り返ってみると、興味深い点がある。まず交流戦を制したのはすべてパ・リーグの球団だ。2005年、06年が千葉ロッテ、07年が日本ハム、そして08年は福岡ソフトバンクが優勝した。
さらに通算の対戦成績も毎年、パがセを上回っている。05年が105勝104敗7分、06年が108勝107敗1分、07年が74勝66敗4分、08年が73勝71敗、ちなみに今季(5月23日現在)も13勝10敗1分とパ・リーグがリードしている。特に05年、06年は新規参入の楽天がパ・リーグの最下位を“独走”していた。それを考慮すれば、明らかに 交流戦は“パ高セ低”である。ちなみに、この4年間、日本シリーズでもパ・リーグの球団が3度日本一に輝いている。
[size=medium] パ・リーグが強い3つの理由[/size]
なぜパ・リーグは強いのか。第一にパ・リーグの各球団に先発の好投手が多いことがあげられる。ダルビッシュ、岩隈はもちろん、杉内俊哉、和田毅(ソフトバンク)、渡辺俊介(ロッテ)、涌井秀章(埼玉西武)などなど。
昨季までの交流戦の投手成績をみると、防御率1位(2.39)がダルビッシュ、勝利数1位(12勝)が杉内、小林宏之(ロッテ)、久保康友(ロッテ−阪神)の3名、奪三振1位(182個)が杉内とパ・リーグ勢が上位を占める。一般的に対戦が少ない投手と打者では、投手のほうが有利だ。相手の球種や球筋に慣れるのに、打者は時間がかかる。
第2に球場のサイズが考えられる。総じてパ・リーグのホームグラウンドはセ・リーグの球場よりも広く、ホームランが出にくい。選手たちにはその分、足の速さ、肩の強さ、打球を遠くへ飛ばすパワーが求められる。
球場は選手を育てる。イチロー(マリナーズ)だって、オリックス時代に本拠地が広いグリーンスタジアム神戸(現スカイマークスタジアム)でなければ、米国の野球ファンをうならせるレーザービームやスキのない走塁は磨かれなかっただろう。
第3の理由として各球団間の移動時間と移動距離があげられる。パ・リーグの球団分布を思い浮かべてほしい。北は北海道・札幌の日本ハムから、南は九州・福岡のソフトバンクと幅広い。楽天は仙台、ロッテは千葉、西武は所沢、オリックスは大阪と各球団はばらついている。移動距離と時間が長くなれば、必然的に選手たちはタフになる。いや、タフな選手じゃなければ使い物にならないのだ。
一方、セ・リーグは関東地区に3球団がひしめいている。あとは名古屋の中日、西宮の阪神、一番遠くても広島止まりだ。交流戦は各カード2連戦を繰り返す変則日程である。移動また移動の日々だ。パ・リーグより短い移動に慣れたセ・リーグの選手にとって長距離移動はストレスになるはずだ。
[size=medium] 注目したい坂本、内川の打撃[/size]
しかし、交流戦も5年目である。セ・リーグの各球団もそろそろ意地を見せてほしい。セ・リーグの球場も遅ればせながら、パ・リーグの広いタイプに近づいてきた。ヤクルトの本拠地、神宮球場は昨年より両翼91メートルから101メートルに拡張された。そして今年は広島に両翼100メートルを超す新球場(MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島)が完成した。新球場のデーゲームでは、真正面から日が照りつけ、フライが見えにくくなる。新球場で初めてプレーするパ・リーグの選手たちにはハンデとなるに違いない。
パ・リーグの好投手に対しても、毎年対戦するうちにセ・リーグの各打者は慣れてきたと思われる。交流戦でも活躍しそうなセ・リーグの打者として、坂本勇人(巨人)と内川聖一(横浜)の名前をあげたい。
坂本は目下、打率.363。イチロー以来の高卒3年目での首位打者に向けて、快音を響かせている。彼の長所は内角打ちの巧さにある。打者の泣き所であるインコースのボールをうまくさばけるため、投手は攻め手がない。そのため、昨年は苦手にしていた外角球にも今季は目がついていくようになった。
なぜ、坂本はインコースをうまくさばけるのか。それは彼がもともと左利きであることに起因する、と私は見る。利き腕が左のため、内角球に対して、バットを引く腕をうまくたたみつつ、スイングできるのだろう。昨年の坂本は交流戦で打率.209と苦しんだ。だが、今年は早くも4試合連続でヒットを重ねている。その勢いは止まりそうにない。
内川は昨季、右打者としては史上最高打率(.378)をマークし、首位打者に輝いた。彼が打撃開眼した最大の理由はミートポイントをボール1個分、手前にしたことだ。「腕が伸びきった前のポイントで打ちたくなるんですが、ちょっと我慢する。その感覚をつかんだんです」。内川はそう語っていた。
ミートポイントを手前にすれば、バットの出は遅れ、ピッチャーのボールに詰まらされる形になる。打者にとって、これほどイヤなものはない。しかし、変化球をギリギリまで呼び込めるため、確実性は増す。
「バットを出す時に右腕は出しながら、前の左腕を戻すような感覚で振る。すると、両腕の力がバンと合わさるポイントがあります。ここが一番、力の出る場所なんです。このポイントでミートすればボールは飛んでいく」
左打者全盛の時代にあって右の坂本や内川の活躍はプロ野球に新しい風を吹かせている。ミクロの視点で2人の打棒を追ってみたい。言葉では表現しきれない細かな動きをチェックできるのは、テレビ観戦の利点である。パ・リーグの投手たちに、2人の巧打者がどんなバッティングをみせるのか。これは隠れた交流戦の見どころである。
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