ヨーロッパ各国リーグが開幕しておよそ1カ月。09−10シーズンの勢力図が段々と明らかになってきた。そしていよいよ、満を持して9月15日(現地時間)に「UEFAチャンピオンズリーグ」が開幕する。昨季のリーグ上位クラブが顔を合わせる贅沢なマッチメイクと豪華絢爛なスター選手たちの競演。世界最高のサッカーがここにある。今シーズンの決勝の舞台はマドリッドのサンチャゴ・ベルナベウ。夢の舞台に向け32クラブがおよそ8カ月に及ぶ長い戦いに挑む。

 ヨーロッパサッカーの王者を決めるチャンピオンズリーグ(CL)は、世界最高峰のサッカーを堪能できる大会だ。優勝クラブに与えられる“ビッグイヤー”(カップの両脇に大きな耳のような取っ手がついている)を手中にすることは、サッカー選手にとってワールドカップを掲げることと同等の名誉であるといっていい。

 15日に開幕するのは8組に分かれたグループリーグ。CLではイングランド・プレミアリーグやスペイン・リーガエスパニョールのようなUEFAランキング上位のリーグから、私たちが普段目にすることのない東欧や小国のリーグのクラブにも出場権が与えられている。本大会を前に1次予選から3次予選までを勝ち抜き、本大会に出場できるクラブは10クラブ。そこにトップリーグで上位に進出しシードされたクラブが加わり32のクラブで激戦が繰り広げられる。

 2つの因縁対決に注目!

 グループAからHに割り振られた組み合わせを見ていくと、いくつか因縁の対決が組まれている。なかでもグループFに同居する昨年の覇者バルセロナ(スペイン)とセリエA4連覇中のインテル(イタリア)との対戦は見ものだ。バルセロナとインテルといえば、今シーズンオフに両クラブのストライカー、ズラタン・イブラヒモビッチとサミュエル・エトーがトレードしたことでも話題を呼んだ。イブラヒモビッチは昨季セリエAで25得点を挙げ、断トツの得点王になっている。一方のエトーも公式戦で30ゴール以上を奪っており、クラブにはなくてはならない存在だった。その両者が移籍したクラブ同士でいきなりの対決となる。

 指揮官の対決も見逃せない。昨年、スペインサッカー史上初めて3冠(CL、リーグ戦、国王杯)を達成したバルセロナで名将の名をほしいままにしたジョゼップ・グアルディオラと、03−04シーズンにポルト(ポルトガル)を欧州王者に導き、チェルシー(イングランド)でも圧倒的な強さを誇ったジョゼ・モウリーニョの対決だ。

 モウリーニョが指導者としてのキャリアをスタートさせたのは96年のバルセロナ。当時クラブを率いていたボビー・ロブソンの通訳からアシスタントコーチとなった。この時、クラブで主将を務めていたのがグアルディオラなのだ。バルセロナでの経験をモウリーニョは自著で次のように述べている。「たくさんの一流選手を指導していれば、必然的にいろいろ学ぶようになる。高いレベルの選手ともなれば、指導者のアドバイスを素直に受け入れるとも限らない。なぜそのようなアドバイスをするのか、きちんと理由を説明する必要がある。バルセロナでプレーするような一流選手ならなおさらだ。彼らとの関係から学んだことは、監督をする上で大きな財産となっている」

 一流の指揮官として両者がぶつかる様は欧州サッカーシーンの一つのハイライトだ。就任1年目にして3つのビッグタイトルを獲得したスペインの青年指揮官と過去7シーズンで実に13ものタイトルを手中にしたイタリアのカリスマ監督。その采配は注目だ。

 もうひとつの因縁はグループCのレアル・マドリッド(スペイン)とACミラン(イタリア)の対決だ。2クラブの間でも、今オフは大型移籍が行なわれている。ブラジルの若き英雄、カカが新・銀河系軍団の一員としてスペインに渡った。

 カカといえば、06−07シーズンにミランのCL制覇に大きく貢献し、その勢いでバロンドール(欧州最優秀選手賞)を獲得している。だが折からの金融危機で、ミランのクラブの経営状況は急激に傾いた。クラブオーナーでイタリアの首相でもあるシルヴィオ・ベルルスコーニは、カカに高額な移籍金を設定し「カカの放出はない」とメッセージを発信し続けた。それを受け、カカ自身もミラン残留を望む声明を出していた。

 しかし、地殻変動は遠く離れたスペインの首都で起きていた。5月、レアル・マドリッドの会長にフロレンティーノ・ペレスが就任すると、自身が00年頃につくり上げたロナウド、ジネディーヌ・ジダン・ルイス・フィーゴらを擁した銀河系軍団の再構築に着手する。そこで、真っ先にターゲットとされたのがカカだった。ミランとも太いパイプを持つペレス会長は、カカ獲得のために92億円の移籍金を提示する。ただでさえ経営が苦しい状況で、史上2番目(直後にC・ロナウドが移籍したため現在は3番目)の高額オファーが届いてしまえば、ミラン首脳陣は首を縦にふらざるを得なかった。

 かくしてカカは「ロッソ・ネロ」から「エル・ブランコ」のユニフォームに衣替えし、後に移籍してきたクリスティアーノ・ロナウドやシャビ・アロンソらと新・銀河系軍団を結成することとなった。

 ミラニスタから愛されていたカカがミランの本拠地サン・シーロへ遠征する時、彼らはどのような反応を示すのだろうか。そして、真っ白のユニフォームに身を包んだカカは古巣にゴールという“恩返し”をすることができるのか。

 混戦必至のグループD

 CLでは各グループ2位以内でベスト16ステージに進出するが、激しい2位争いとなりそうなのはグループDだ。

 このグループでは3年連続CLベスト4に進出しているチェルシー(イングランド)が頭一つ抜きん出ているが、2位争いが熾烈をきわめる。昨年のCL準々決勝でマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)を苦しめたポルトと、スペインリーグ4位のアトレティコ・マドリッドが激しい2位争いを繰り広げそうだ。ポルトは東京ヴェルディから移籍したフッキがクラブの中心選手となっている。昨季までの司令塔、ルイス・ゴンザレスと得点源のリサンドロ・ロペスが移籍したため、フッキにかかる期待は大きい。日本でもずば抜けた身体能力と迫力のあるドリブルをみせていたが、彼のポテンシャルはCLの舞台でも十分に通用する。ひとまわりスケールアップした彼のプレーから目が離せない。

 ポルトと争うアトレティコは何といってもツートップの2人をチェックしておきたい。セルヒオ・アグエロとディエゴ・フォルランだ。特にフォルランはスペインで屈指の破壊力を持つ。身長179センチと上背があるわけではないが、当たり負けしない強靭な肉体でDFからのプレッシャーをはねのける。彼がボールを受けた時の一歩目のスピードは必見。相対する守備陣の網を切り裂くドリブルは鋭利な刃物のようだ。瞬く間に相手の急所を突き、決定的な仕事をする。両足のシュートも、左右関係なく正確で強烈だ。さらに相手ゴール付近の危険地帯に飛び込んでいく姿はまるでハンターのよう。08−09シーズンのリーガ得点王の雄姿に注目してもらいたい。母国・ウルグアイのユニフォームを身に纏って戦うW杯南米予選でも6ゴールをあげ、主将としてチームをひっぱる。彼こそ、世界最高レベルの点取り屋だ。

 本命バルセロナが挑むジンクス

 昨季のチャンピオン、バルセロナが披露したサッカーはスペクタクルそのものだった。シャビ、アンロレス・イニエスタという2人の才能豊かなスペイン人MFとリオネル・メッシ、ティエリ・アンリ、エトーの3トップが圧倒的な攻撃力を生み出した。

“夢の対決”と言われたローマでの決勝戦では、マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)相手に2−0の完勝。前評判では互角との見方が多かったが、蓋をあけてみればバルセロナの独壇場だった。この試合でダメ押し点を決めたメッシが大会9ゴールで得点王となり、バロンドールも獲得している。今季のリーガ・エスパニョーラ開幕戦もメッシ抜きの布陣で快勝し、CL開幕戦に向け不安はない。

 先述のとおりエトーがイブラヒモビッチに替わったが、戦力ダウンとはいえず、むしろ攻撃の幅が広がった印象もある。世界中のサッカーファンを魅了した華麗なパスサッカーに磨きがかかるだろう。欧州王者の座に一番近いところにいるのは確かだ。

 彼らにとって一つ気になるのは、89−90シーズンのミランを最後に2年連続で欧州チャンピオンになったクラブがないことだ。現行のCLになってからは連覇を果たしたクラブは存在しない。グアルディオラと選手たちはこのジンクスとも戦うこととなる。

 今季の決勝の舞台はレアル・マドリッドのホームであるサンチャゴ・ベルナベウだ。それだけに、新・銀河系軍団を結成したレアルのCLにかける意気込みは高い。5年連続のベスト16止まりと満足のいかない成績が続いており、最低でもベスト4には進出したい。

 シーズン開幕前、移籍市場で欧州をリードしたのはスペインだった。CLの舞台でも輝きを放つのは“太陽の国”のクラブなのか。はたまた、ここ数年、我が世の春を謳歌し続けたイングランドの勢いが続くのか、それとも……。



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【09−10欧州チャンピオンズリーグ グループリーグ第1節】

9月15日(火) 27:45キックオフ
◇グループA
ユベントス(イタリア) × ボルドー(フランス)
マッカビ・ハイファ(イスラエル) × バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)

◇グループB
ヴォルフスブルグ(ドイツ) × CSKAモスクワ(ロシア)
ベジクタシュ(トルコ) × マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)

◇グループC
チューリッヒ(スイス) × レアル・マドリッド(スペイン)
マルセイユ(フランス) × ACミラン(イタリア)

◇グループD
チェルシー(イングランド) × ポルト(ポルトガル)
アトレティコ・マドリッド(スペイン) × アポエル・ニコシア(ギリシャ)

9月16日(水) 27:45キックオフ
◇グループE
リバプール(イングランド) × デブレツェニ(ハンガリー)
リヨン(フランス) × フィオレンティーナ(イタリア)

◇グループF
インテル(イタリア) × バルセロナ(スペイン)
ディナモ・キエフ(ウクライナ) × ルビン・カザン(ロシア)

◇グループG
シュツットガルト(ドイツ) × レンジャーズ(スコットランド)
セビージャ(スペイン) × ウニレア・ウルズィチェニ(ルーマニア)

◇グループH
オリンピアコス(ギリシャ) × AZ(オランダ)
スタンダール・リエージュ(ベルギー) × アーセナル(イングランド)

(試合開始時刻は日本時間、左チームがホーム 各グループ上位2クラブがベスト16ステージ進出)

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