「2009年、最も飛躍が期待されるスポーツ選手は?」
 昨年末から今年の初めにかけて、そう訊ねられた時、私は「プロゴルファーの石川遼」と答えてきた。周知の通り、プロ1年目の昨年は17歳で獲得賞金1億円を突破。これは丸山茂樹の持つ26歳1カ月を大きく上回る日本最年少記録だった。

 それにしても、誰がここまでの飛躍を遂げると予想しただろう。6月のミズノオープンクラシックで今季初優勝をあげたのを皮切りに、ここまで4勝。獲得賞金は1億5千万円を軽く突破した。2位の池田勇太に547万円の差をつけ、現在、賞金王へもっとも近い位置にいる。

 スーパープレーはスターの証明
 
 石川は時にドラマティックな演出でファンの心をわしづかみにする。先のミズノオープンでは、単独首位で最終日をスタートしながら、12番でOBを連発し、パー4でなんと9打を叩いた。2位の選手に並ばれ、優勝争いは混とんを極めた。さらに16番のパー5では、2オンを狙ったショットがグリーン奥のラフに入り込んでしまう。

 しかし、続くサンドウェッジでのアプローチは、バウンドした後、強い球足でグリーンを転がる。カップにはじかれるかと思いきや、ピンに当たってそのままチップイン。スーパーショットでスコアを一気に伸ばし、後続を引き離した。

 無意識のうちに奇跡的とも思えるシーンを演出してしまうのが、スターのスターたるゆえんである。天覧試合でサヨナラホームランを放った長嶋茂雄しかり、WBCで連覇を決める一打をセンター前へはじき返したイチローしかり、ファンの記憶に残る選手たちは自らストーリーを演出するかのように、ここぞという場面でとんでもないことをやってのける。あの一打だけでも石川はスターの証明を果たしたと言えるだろう。

 もちろん人気に浮かれることなく、地道なトレーニングに励んでいる点も見逃せない。昨秋からフィジカル強化に力を入れ、体脂肪率は13%から9%に減った。胸囲は5センチもアップし、ゴルフウェアの下の肉体は一層たくましさを増している。夢だった4月のマスターズの舞台では、予選落ちに終わったが、帰国後、腹筋や片足スクワットなどの厳しい練習を積み、体の軸が安定した。

 先月、世界選抜の一員として参戦した米国選抜との対抗戦では、世界ランク6位のケニー・ペリーに2アンド1で競り勝った。「もう何も話すことはない。あの少年は私に引導を渡してくれた(笑)。彼はとても落ち着いているし、18歳にしてはとても成熟している」。49歳のベテランも脱帽の内容だった。一方の18歳は「最後まで粘れたのは、プロになってからの成長をいかせた結果」と自信を深めつつある。1年どころか、1日単位で進化を遂げているのが今の石川遼の姿なのだ。
 
 対照的なライバル

 近年、女子ツアーに押され気味だった男子は、石川の出現で大きく流れが変わった。今季のゴルフ中継で最終日の平均視聴率(関東地区)が10%を超えたのは、既に8回。石川のメジャー初制覇がかかった10月の日本オープンでは男子ゴルフ中継で史上5位(現行の調査方法開始以降)となる16.1%の高視聴率をたたき出した。ゴルフ界はもとより、メディアにとっても、まさに“遼クンさまさま”。文字通りの救世主である。

 ただ、どんなスポーツでも人気を不動のものにするには“ライバル”の存在が欠かせない。大鵬には柏戸がいた。ジャイアント馬場にはアントニオ猪木がいた。王貞治には江夏豊がいた。最近でも浅田真央とキム・ヨナ(韓国)のハイレベルな争いがフィギュアスケート人気に拍車をかけていることは間違いない。果たして石川には、どんなライバルが現れるのか。彼のプレーとともに、私はそこに注目してみていた。

 そして、ライバルと呼べる存在がついに登場した。23歳の池田勇太である。実質プロ2年目の今季、6月の日本プロ選手権でプロ初優勝。一気にスターダムに躍り出た。10月はキャノンオープン、ブリヂトンオープンと2つの大会を制し、一時は賞金王争いのトップに立った。ブリヂストンオープンでは自宅から車で30分という地の利を生かし、前日の3位から逆転。「いいプレーをすれば結果も賞金もついてくる」。何事にも動じない落ち着きぶりは23歳の若者とは思えない。

 原色の鮮やかなウェアをスマートに着こなす石川に対し、3タックズボンでダボッとしたいでたちの池田。記者の質問にもハキハキと優等生発言を繰り返す石川に対し、無骨な語り口の池田。このコントラストもライバル物語に彩りを添えている。プレースタイルも池田には派手さはないが、平均ストローク数(69.61)は石川(69.79)を上回り、今季ナンバーワン。堅実なショットが目立つ。

 今季の残りは泣いても笑ってもあと3試合。気がかりなのは池田の体調だ。右手、左腰に痛みを抱え、一時は残り試合の欠場も示唆した。しかも残り3試合のうち2戦は初出場。いずれの大会も経験済の石川と比べれば、ややハンデがある。とはいえ、各試合の優勝賞金は4000万円で、547万円の差は容易にひっくり返る。最後まで勝負の行方は分からない。

 ギャラリーはマナーも携帯を

 加熱する賞金王争いの中で気をつけたいのは、ギャラリーのマナーだ。10月の日本オープンでは、温厚な石川が怒りをあらわにしたシーンがあった。最終日、6番のバンカーからの第4打。心ない観客がカメラ付き携帯電話のシャッター音を発したのだ。

「すみません、カメラやめてくださいね」
 スイングを中断した石川は2度、自らの太ももを叩いていらだちを隠さなかった。この妨害音が災いしたのか、仕切り直しの一打はラフに入り、ダブルボギーを叩いてしまった。結局、石川はプレーオフで敗れ、2位に終わった。
「もし初めて来た人で知らなかったらしょうがない。しかし、観戦ルールがわかった上での行為だったら悲しい。本当は優勝して皆さんに言いたかった。マナーを守ってみている方がかわいそうだし、僕はマナーを守っている方にプレーを見てほしい」

 今季は8月にもギャラリーのマナーが問われたことがあった。石川が優勝したサンクロレラ・クラシックの最終日、同じ組で回っていたブレンダン・ジョーンズ(オーストラリア)がバーディ・パットを外した。その瞬間、観客の一部から拍手が起こったのだ。「日本で長年プレーしているが、ああいう場面に遭遇したのは初めて」とジョーンズ。ゴルフはルールブックの第1章に「エチケット」を規定した紳士のスポーツである。「ゴルフは紳士のスポーツで外したことを喜ぶ応援のスタイルはない。ギャラリーの方も真摯な気持ちで観戦してもらいたい」。石川も行きすぎたファンに苦言を呈していた。

 石川、池田、どちらが賞金王になっても尾崎将司の最年少記録(26歳)を大きく塗り替える。男子ゴルフ新時代の扉を開く2人の戦いをスカパー!を通じて静かに熱く見守りたい。


メジャー大会をはじめ、国内外の主要大会を放送中!
12月には石川遼選手の特番も決定!


【男子ツアー、残り試合日程】  ( )内は放送局

◇ダンロップフェニックス(GAORA
 11月19日〜22日、宮崎・フェニックスカントリークラブ
◇カシオワールドオープン(ゴルフネットワーク
 11月26日〜29日、高知・Kochi黒潮カントリークラブ
◇日本シリーズJTカップ
 12月3日〜6日、東京よみうりカントリークラブ

【女子ツアー、残り試合日程】

◇大王製紙エリエールレディス(ゴルフネットワーク
 11月20日〜22日、香川・エリエールカントリークラブ
◇LPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ(ゴルフネットワーク
 11月26日〜29日、宮崎カントリークラブ

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