「チームが勝つためならば自分の記録は途切れても構いません。勝つための手段として、僕は(スタメンから)はずれます」
 4月18日の横浜との試合前、阪神の金本知憲は真弓明信監督に自らそう切り出した。決然とした口調だったという。
 この日、阪神は8対4で勝利し、連敗を2で止めた。

 1999年7月21日から続いていたプロ野球の連続試合全イニング記録1492試合(1万3686回)でストップした。区切りとなる1500試合に、わずか8試合及ばなかった。
 金本の男気を称えたい。スタメン落ちを切り出す前には、言葉にできない葛藤もあっただろう。よくぞ決断したものだ。
 真弓監督は「1イニングでも長く続けて欲しいと思っていた」と語ったが、内心はホッとした部分もあったのではないだろうか。というのも金本の肩は故障によりボロボロの状態だったからだ。

 前日のゲームではレフト前ヒットを処理し、本塁へ送球したボールが、あろうことか内野に届かずバウンドしてしまった。この日はテーピングで負傷箇所を固定したが、本人によれば「悪あがき」に過ぎなかった。
「こんな肩では外野手としての責任を果たせない」
 責任感の強い男だけに、そう考えたはずだ。

 アニキの決断を受け、多くのOBが感想を寄せたが、白眉は福岡ソフトバンク王貞治会長のコメントだ。
「選手は記録のためでなく、チームの勝利やファンの期待に応えるためにやっている。野球人としては正しいジャッジをしたのではないかと思う」

 監督の立場に立てば、記録を更新し続けている選手に対しては、どうしても腫れ物にでも触れるような扱いになる。それを続けているとチームがギクシャクしてしまいかねない。
 過去にそういう例をいくつも見てきた。
 その意味でも金本の決断はタイミング的に絶妙だった。巨人を追う阪神はこれを奇貨にしなければならない。

<この原稿は2010年5月10日、17日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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