プロ野球史に残る名勝負といわれる1979年の広島対近鉄の日本シリーズ第7戦。世にいう“江夏の21球”で広島が4対3で近鉄を振り切り、球団史上初の日本一に輝いた。
 手に汗握りながらテレビにかじりついていた記憶がある。観る側にも緊張を強いたこのゲーム、時間は瞬く間に過ぎ去った。しかし、後で調べてみると試合時間は3時間29分。ちなみに昨季の1試合あたりの平均試合時間は3時間13分(延長戦など含まず)であることを考えれば、短いどころか長めの試合である。要は所要時間ではなくゲームの質が問題なのだ。

 とはいうものの、“江夏の21球”のような、時すら忘れる名勝負は1シーズンにそう何度もお目にかかれるものではない。プロ野球の問題点を聞かれた時、多くの人が「試合時間の長さ」をあげる現実に球界はもっと真摯に向き合うべきだ。

「野球の力で温暖化ストップ!」を合言葉に「試合時間マイナス6パーセント」の方針をNPBが打ち出したのは3年前である。翌年からは「9イニング3時間以内」を目標に定めた。しかし残念ながら、ここまでのところ大きな成果は見られない。逆に昨季は試合時間が前年より5分も伸びてしまった。大震災による電力不足が深刻さを増すなか、試合時間の短縮はもはや「目標」というより「義務」に近いものと言えるかもしれない。

 広島で2度にわたって監督を務めた山本浩二は試合時間短縮のために「ストライクゾーンの見直し」をかねて主張してきた。「ボール1個分とは言わない。せめてメジャーリーグ並みに外だけ半個分広くする。これだけでも試合時間はかなり短縮できる」。そして続けた。「今年のキャンプで(東北楽天の)星野(仙一監督)も同じことを言ってたよ。“審判を(セ・パで)統一したんだから、協調して外をちょっと広くすればいい”ってな。最初のうちバッターは戸惑うかもしれんが、やるんなら今しかないやろう」

 今季はストライクゾーンが広い、となればバッターは初球から積極的に打ちにいくはず。必然的に試合時間は短くなる。本来、こうした改革には準備期間が必要だが、今、プロ野球が置かれている状況はかつてないほど厳しい。コミッショナーが指導力を発揮してもいい局面である。

<この原稿は11年3月30日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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