スピアーズ松下怜央、3年目に迎えた“春” ~リーグワン~

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 春はスタートの季節である。入園、入学、入社……。日本のシーズンは春からスタートする。一方、ラグビーの国内リーグは秋春が一般的だ。それは2022年にスタートした「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE」(リーグワン)も同じカレンダー。4月に入社(入団)する選手たちは、アーリーエントリーという制度があるため、早ければ1、2月でファーストキャップを刻む。4月6日、クボタスピアーズ船橋・東京ベイの松下怜央がリーグワンデビューを果たした。彼にとっては早稲田大学から入社して3年目、24歳で迎えた春である。

 

 桜舞う東京・秩父宮ラグビー場。第14節、リコーブラックラムズ東京戦である。この日リザーブ入りした松下にお呼がかかったのはトライエリア(インゴール)でハドルを組んでいた時だ。WTB根塚洸雅がHIA(脳震盪のチェック)により一時退出を余儀なくされた。背番号23は、円陣から離れ、メインスタンド側にあるベンチへ向かった。松下の述懐--。
「タイミングは予定外でしたが、僕の気持ちとしては、いつでも準備できる気持ちでした」

 

 前半24分、ピッチに入るとレオコールで迎えられた。メインスタンド上部、東京メトロ外苑前駅側に陣取るスピアーズのノンメンバーからも声援が届いた。「すごくうれしかった。クボタは本当に仲が良い。僕もそうでしたけど、試合に出ていないメンバーは悔しい気持ちがある中、チームを応援することを第一に考えている」と松下。再びスタンドを沸かせるのに時間は要さなかった。

 

 28分、SH藤原忍、SOバーナード・フォーリー、FB押川敦治が素早いテンポでパスを繋ぐと、左サイドで持つ松下にボールが回る。背番号23は内に切り込みながらWTBメイン平のタックルを鋭いステップでスライドしてかわす。さらにLO山本嶺二郎のタックルを受けてもスピードを落とさず前進。追っ手のタックルも切る跳ねるようなステップでトライエリア左中間に飛び込んだ。急遽訪れた出場機会で、いきなり結果を残すというのは、何かを“持っている”証拠か。

 


 HIAの結果、陰性判定だった根塚が36分にピッチに戻ったため、松下は一旦ベンチに下がった。後半22分にWTBハラトア・ヴァイレアと代わり、ノーサイドまでプレーした。チームは松下のデビュー戦を白星(42-14)で飾り、この日、上位6チームまで進めるプレーオフトーナメント出場を確定させた。

 


 名門・早稲田大学でレギュラーを張り、3年時には全国大学選手権優勝、3年時には同準優勝を経験した男のデビューとしては遅いと感じる者もいるかもしれない。「他チームの周りの同期や、スピアーズでもどんどんデビューしていく中、正直焦りも感じていた」と本人。だがスピアーズのバックスリー(WTB、FB)には根塚、ヴァイレア、押川、ゲラード・ファンデンヒーファーと多士済々だ。現在は故障離脱中の木田晴斗も控えている。この一角に割って入るのは容易でない。さらに松下がプレー可能なCTBも立川理道、廣瀬雄也、リカス・プレトリアスと人材は豊富。毎週ジャージーを勝ち取るのも大変だが、松下自身が「強いチームに行って、自分を成長させたい」とスピアーズを選んだからには、その競争から退くわけにいかない。


 跳ねるようにピッチを駆け抜ける姿は獅子よりもペガサスを想起させる。この日はWTBの起用だったが、CTB、FBもできるユーティリティー性も持ち味だ。スピアーズのフラン・ルディケHCはブラックラムズ戦後の会見で「若手中心のメンバー外の試合でも、彼は12番も15番でも、WTBでもプレーできるオールラウンダー。ケガ人が出た場面でも、彼を送り出すことができました。彼は3つの脅威をもっています。183cmのサイズもあるし、足も速い、そして素晴らしいフットワークにスキルもあります」と高く評価していた。先述したようにポジション争いは激しいが、今後の出場機会も増えてくるだろう。

 

「選ばれて試合で活躍することがスタート。今日はいいプレーできましたが、これからもメンバーに入り続けて、良いプレーをできるようにしたい」
 若手の抜擢、躍動が目立つスピアーズ。また1人、行く末が楽しみな選手が現われた。

 

(文・写真/杉浦泰介)

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