羽生結弦の「SharePractice」こそ、後輩への最高の贈り物

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 ゼビオアリーナ仙台が、2024年9月から行っていた改修工事を終え、2025年7月5日にリニューアルオープンする。この記念すべき日に花をそえるため、プロフィギュアスケーターの羽生結弦、本田武史、鈴木明子、本郷理華がアイスショー「The First Skate」に出演する。

 

 この改修工事が発表されたのは、2023年11月だった。羽生は、「nottestellata2024」の初日公演(2024年3月8日)後の囲み取材で、地元テレビクルーからこんなことを聞かれていた。

 

――:地元宮城の後輩のスケーターたちに、っていう思いもあると思うんですけど。長町の新スケート場(ゼビオアリーナ仙台)もありますけど、そういった今後の動き、それからサポートっていう意味では、現状のその考えは?

 

羽生:自分が滑れるうちは、自分が納得できるクオリティーのスケートができるうちは、正直、自分に集中しているだけで精一杯な感じなので。今までのスタイルと変わらないかもしれませんけど、僕なんかを見て憧れてくれたり、仙台からオリンピックに出た偉大な先輩たちがいて。そういう先輩たちに僕自身が憧れたように、仙台からオリンピックを目指して、優勝を目指して頑張ってくれる子が少しでも増えてくれたらいいなって思いながら、格好いい姿をとりあえずは見せたいなとは思っています。

 

「自分に集中しているだけで精一杯」。“アスリートなのだからそりゃそうだよな”、と私は思ったし、“アスリートなのだからそうすべきなのだ”とも思った。

 

 しかし、それらと同時に“いやいや。「SharePractice」があるじゃないか”と、私は思った。

 

「SharePractice」とは、羽生が自身のYouTubeチャンネルで行なったライブ配信だ(2022年8月10日配信)。彼がリンクに上がるまでのウオーミングアップや、集中力を高めるルーティン、氷上での練習を配信したものだ。ネット環境さえ整っていれば、いまも無料で視聴できる。

 

 もちろん、研究熱心な羽生だからトレーニングやウオーミングアップの内容は日々チューンアップしている。実際、テレビ番組の対談で、トレーニング内容は「めちゃくちゃ変わっています」と語っていた。2022年当時と現在で、羽生のウオーミングアップやトレーニングは変わっていたとしても、明日を夢見るスケーターたちにとって、この「SharePractice」の存在意義は大きい。

 

 この時はダッシュ系、ジャンプ系の動きで筋肉に刺激を加えたあと、鏡を見て立った状態で、背骨と肩甲骨を波打つように動かしていた。これの進化版がテレビ番組で見せたアリゲーターウォークなのかもしれない。

 

 このほかにも、多種に渡る動きで、筋肉や関節、腱、神経を刺激していた。トレーニングの質、表現のレベルを高めるため自己に集中するルーティンも勉強になる。私がキッズ・学生スケーターだったら、画面に噛り付く勢いで何度も視聴するだろう。

 

 この動画の中の羽生と同じメニューをこなせ、と言う気は全くない。羽生も、そんな気は全くないはずだ。ウオーミングアップは、自らに合ったメニューを構築すべきだ。

 

 ただ、間違いなく言えることが2つある。

 

 1つは「五輪を連覇したスケーターでさえ、これだけ準備にこだわっている」、ということ。そしてもう1つは、「これだけ準備にこだわっているからこそ、五輪を連覇できるスケーターになれた」ということだ。

 

 スケートに向き合う姿勢、準備などは、五輪連覇者の真似はできる。羽生結弦の「SharePractice」こそ、後輩スケーターへの最高の贈り物なのかもしれない。2025年7月1日現在、この考えはいまだ変わっていない。

 

(文/大木雄貴)

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