「7回くらいから、その兆しはありましたよ。相手が打てそうな気がしませんでしたから。それにシーズンが始まったばかりの4月はピッチャーが有利。実は僕の3回目(のノーヒット・ノーラン)も4月なんです」。感慨深げにそう語ったのはカープの元エース外木場義郎だ。後輩のマエケンこと前田健太のノーヒット・ノーラン(6日の横浜DeNA戦)はテレビで観ていた。「彼は昨年の10月にも“あわや”という試合がありましたが、今回の方が安定感がありましたね」
 プロ野球界では、これまで延べ74人が完全試合を含むノーヒット・ノーランを達成しているが、3度もやってのけたのは「伝説の大投手」沢村栄治と外木場だけである。沢村が3度ともノーヒット・ノーランであるのに対し、外木場の記録には完全試合も含まれている。まさに「ザ・レジェンド」だ。

 振り返って、外木場は語る。「完全試合は市民球場での大洋戦。1968年9月14日のことです。(完全試合を)意識したのは7回くらいからかな。最初はベンチから“ナイスピッチング!”という声が出ていたのですが、7回くらいからベンチが水を打ったようにシーンと静まり返った。僕よりもまわりの方が緊張していた。9回の3人は狙って三振をとりました。緩い球を投げて打たれたら悔いが残るでしょう。それが嫌だったんです」。豪快なフォームから繰り出すホップするストレートと、落差が大きくブレーキの利いたカーブ。16奪三振はセ・リーグタイ記録というプレミアム付きだった。

 これだけの偉業を成し遂げていながら、外木場はまだ野球殿堂入りを果たしていない。今年はエキスパート部門で最多の28票を集めたものの、当選必要数にわずか1票足りなかった。

 メジャーリーグと比較してみよう。完全試合を含むノーヒット・ノーランを3回以上達成した者は5人いる。ノーラン・ライアンの7回を筆頭にサンディ・コーファックスの4回、サイ・ヤング、ボブ・フェラー、ラリー・コーコランの3回。この中で殿堂入りを果たしていないのはコーコランだけだ。

 外木場をコーコランにしてはいけない。75年の赤ヘル初Vも20勝をあげた彼の右腕なくしては実現しなかった。そうしたことまで含めて考えると、この大投手への評価が正当なものだとは思えない。

<この原稿は12年4月11日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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