ひと山いくらの舶来品ではない。06年には16勝をあげて最多勝に輝いている正真正銘のメジャーリーガーだ。マーリンズ時代の03年にはワールドシリーズで2勝を挙げ、世界一の立役者にもなっている。MLB通算119勝は、来日したピッチャーの中ではトップクラスの実績だ。福岡ソフトバンクの新外国人投手ブラッド・ペニーが原因不明の右肩痛に悩まされ、戦列を離脱している。入団前のフィジカルチェックはどうなっていたのか.
 古い話で恐縮だが、“巨砲”転じて“虚砲”となったフランク・ハワードを思い出す。彼ほど博多の野球ファンを落胆させた外国人はいなかった。
 セネタース(現レンジャーズ)時代、2度ホームラン王に輝いているMLB屈指の強打者が太平洋クラブに入団すると聞いた時の衝撃は、87年にヤクルトがバリバリの現役メジャーリーガー、ボブ・ホーナーを獲得すると聞いた時の比ではなかった。なにしろMLB通算382本塁打の大砲である。それがよりによって弱小地方球団の太平洋クラブに入団するとは……。評論家の青田昇は「タマげるのぉ、こいつは本物じゃあ」と太鼓判を押した。

 生まれ故郷である四国西部の港町には豊後水道を越えて九州の電波がよく届いた。ハワードの情報を最も熱心に伝えていた福岡の某ラジオ局はリスナーへのサービスとしてハワードのホームラン数を予想するクイズを企画した。当たれば海外旅行だ。中学生だった私は葉書で「0本」と書いた。大穴を狙ったのだ。「いきなり死球でケガすることもあるだろうし……」。ヤマ勘は当たった。ヒザを痛めていたハワードは、たった1試合、3回打席に立っただけで治療のため米国に帰り、2度と戻ってこなかった。クイズに的中したにもかかわらず、私には梨のつぶてだった。

 事後処理に奔走したのが、当時、球団代表をしていた坂井保之だった。ハワードは「試合中のケガだから公傷だ」と主張し、年俸の全額支払いを求めた。坂井は「そんな不誠実な話はない」といって、これを拒否。支払い額を半額にすることで事を収めた。

 ペニーをハワードと同列に論じるつもりは全くない。彼にはまだ汚名返上のチャンスが残されている。「Penny,No Pain」。こんな見出しが躍る日が来ることを願っている。

<この原稿は12年4月25日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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