「次のWBCの日本代表監督は落合博満さんが最有力みたいですよ」
 過日、ある著名なプロ野球評論家が私にそっと耳打ちした。

 中日時代、8年間で4度のリーグ優勝を果たした実績はダテではない。球界に影響力を持つ巨人・渡邉恒雄会長の信頼も厚く、本人さえOKすれば、すんなり決まる可能性が高い。問題はWBCでの過去の因縁だ。

 周知のように連覇を果たした第2回WBC日本代表メンバーに、中日勢は皆無だった。
 これには伏線がある。2008年11月、第1回スタッフ会議が行なわれ、そこで48人が第1次候補に選ばれた。中日からは岩瀬仁紀、森野将彦ら4人が選出された。ところが彼らは、「時期的にも不安が大きい」(森野)などと出場を辞退した。

 中日の指揮を執っていた落合は「選手はNPBに雇われているわけではない。出たい選手の意思を尊重すると同時に、辞退する選手の意思も尊重しないといけない」と選手を擁護したが、メディアは「集団ボイコット」と書きたてた。
 落合の主張は筋が通っていた。選手は雇用契約をNPBではなく球団と結んでいる。代表入りする、しないの選択はあくまでも選手個々の自由であり、WBC日本代表監督はもとより、コミッショナーにも代表入りを強制する権限はない。

 しかし、さすがに全員揃っての“ボイコット”となるとメディアは「落合の意向を選手が忖度したのではないか」と読む。WBC東京ラウンドの主催者が中日新聞社のライバル会社である読売新聞社だったことも話を複雑にした。
 第2回WBCの指揮を執った原辰徳は2度目のスタッフ会議直後、「1球団は誰1人協力者がいなかった」と皮肉を口にした。

 現在はフリーの身とはいえ、4年前の落合の言動を苦々しく思っている関係者は少なくない。「落合ジャパン」が誕生した場合、今度は逆のことが起こりかねない。まだ一波乱、二波乱ありそうだ。

<この原稿は2012年5月7・14日号の『週刊大衆』に掲載されたものです>

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