第312回 拓真か井岡か!? バンタムに熱風

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 にわかに世界バンタム級戦線が活気付いてきた。

 

 2025年11月24日、WBC世界バンタム級王座決定戦で、売り出し中の那須川天心を判定で下し、3度目の世界王座奪取に成功した井上拓真に、元世界4階級制覇王者で、現WBA世界バンタム級9位の井岡一翔が挑戦する可能性が浮上してきたのだ。

 

 拓真にとっても、5階級制覇を狙う名王者を返り討ちにすれば、さらに株が上がる。対戦は望むところだろう。

 

 日本中が注目した天心戦で、拓真は一皮むけた印象を受けた。1、2回こそ劣勢だったものの、3回以降は接近戦に活路を求め、ほぼ一方的にリングを支配した。

 

 

 悪くなった流れを変えられなかった天心と、悪い流れを変えた拓真。敗因について聞かれた天心は、「経験の差」と答えた。

 

 しかし、こと「経験」でいえば、日本の軽量級で井岡を上回る者はいない。

 

 ここまで36戦して31勝(16KO)4敗1分け。世界戦だけでも27試合だ。

 

 彼のベストバウトは、2020年12月31日、3階級王者の田中恒成を挑戦者に迎えてのWBO世界スーパーフライ級戦だ。

 

 当時の年齢は井岡が31歳、田中が25歳。関係者の中には田中の若さを買う者もいたが、試合は井岡のレッスンショーに終わった。

 

 5回、6回といずれもダウンを奪ったパンチは左フック。井岡は田中の右のガードが落ちるクセを見逃さなかった。

 

 8回も、フィニッシュブローは左フック。同じパンチで3度も倒された田中は「こんなに差があったのかとびっくりした」と驚いたような表情を浮かべていた。

 

 井岡のボクシングを一言で表現するなら“理詰めのチェス”だ。攻防に一切の無駄がない。近年は4団体統一世界スーパーバンタム級王者の井上尚弥、2団体統一世界バンタム級前王者の中谷潤人の陰に隠れがちだが、彼もまた不世出のボクサーである。

 

 対する拓真も、先の天心戦で「尚弥の弟」というレッテルをひっぺがした感がある。キック時代から無敗の天心に土をつけたばかりか、井岡の5階級制覇を阻止したとなれば、ボクサーとしての大きなレガシーとなるだろう。

 

<この原稿は『週刊漫画ゴラク』2026年1月2日号に掲載された原稿を一部再構成しました>

 

 

 

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