第1203回 ネトフリWBC独占配信で考える「日本版UA権」の議論

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 3月5日に開幕する第6回WBC。宮内庁は、8日に東京ドームで行なわれる日本代表対オーストラリア代表戦が「天覧試合」になることを発表した。プロ野球における「天覧試合」は、1966年11月6日の全日本対ドジャース(日米野球)以来60年ぶり。

 

 

 言うまでもなく、最も有名な「天覧試合」は、1959年6月22日に、東京・後楽園球場で行なわれた巨人対阪神戦だろう。9回裏に長嶋茂雄が村山実から放ったサヨナラ本塁打が語り草だが、ON初のアベック本塁打、藤田元司の熱投、吉田義男のファインプレー、広岡達朗の頭脳的なピックオフプレー……と、野球の粋(すい)が全て詰まったようなゲームだった。

 

 長嶋が放った天皇・皇后両陛下の眼前でのサヨナラ弾は、「職業野球」と蔑まれた時代からの決別を告げるものでもあった。長嶋は語っている。「それまでプロ野球は人気があるとはいえ、まだマイナーなスポーツだったんです。選手の社会的プレステージも低かった。それが、あの天覧試合一つで、一気にメジャーなスポーツになった。ええ、ええ、ナショナルなスポーツになったんです」(『巨怪伝』佐野眞一著・文藝春秋社)。長嶋の一振りで、プロ野球は、「菊の御紋」のお墨付きを得ることに成功したのである。

 

 長嶋の言葉を借りれば、「マイナースポーツだった」プロ野球が「権威」とともに獲得したのが「大衆性」である。実はこの試合の2カ月前に皇太子殿下と美智子さま(現上皇ご夫妻)の“ご成婚パレード”がテレビ中継され、家庭用テレビが飛躍的に普及した。これにより多くの一般大衆が、野球をご観戦の両陛下と同じ時間を共有することができたのである。

 

 さて60年ぶりの「天覧試合」はどうだろう。残念ながら、今回のWBCは、米動画配信大手「ネットフリックス」が国内独占配信するため、多くの一般大衆が、両陛下と同じ時間を共有することはできない。ジャーナリストの松谷創一郎によれば、「通信による放送の吸収」が進むご時世である。見たくても見られない人は、たくさんいるはずだ。

 

 参考にすべきは五輪やサッカーW杯、ラグビーW杯、テニスのウィンブルドンの一部の試合を対象に無料放送を義務付けた英国の「ユニバーサルアクセス(UA)権」だ。

 

 英国は2024年に20年ぶりにメディア法を改正し、ネトフリなどによる動画配信も、英放送通信庁の管轄下に置いた。国民の「見る権利」を保障するためのものだが、必然的に大会の「公共性」も厳しく審査されることになった。

 

 英国で人気の低いWBCがUA権の対象になることは、まずあるまい。では仮にそうなった場合、何が問われるか。運営主体のWBCⅠはMLB機構と同選手会の共同出資会社である。そのため公共性と公益性が審査の対象となるだろう。

 

 だが日本においては若干、趣が異なる。「天覧試合」が「公共性」を付与するのではないか、と考えることもできるからだ。この際、法制化の是非も含め、日本版「UA権」のあり方について議論してみたらどうか。

 

<この原稿は26年3月4日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>

 

 

 

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