第705回 引退後も楽しみ“オールド・ルーキー”楽天・斎藤隆

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 2002年に米国で大ヒットした映画「オールド・ルーキー」の主人公ジム・モリスは実在の人物である。メジャーリーグのデビルレイズで99、00年と2年間、左のリリーフ投手としてプレー。計15イニング投げている。勝ち負けはない。
 83年、ブルワーズにドラフト1巡目で指名され、入団。身長190センチの大型左腕として将来を嘱望されていた。ところが肩を故障し、4年後に解雇。再起を誓ったホワイトソックスでも活躍の場はなかった。

 夢破れたモリスは高校教師に転じる。若き日、メジャーリーガーを目指した野球部監督の目に映る弱小チームの練習風景は、なんとも生ぬるいものだった。「夢を持て!」。生徒への叱咤は、ブーメランとなって我が身に突き刺さる。「先生こそ、夢を諦めるべきではない」。故障の癒えた肩から投じられるボールは、そこいらの高校生の手に負えるものではなかった。「よし、キミたちが地区優勝したら、オレも入団テストを受けよう」。一度は断念したメジャーリーガーへの再挑戦。モリスの言葉が胸を打つ。「遅すぎる夢はない」――。

 このモリスよりも、ひとつ上の36歳でメジャーリーグデビューを果たした日本人がいる。先日、現役引退を発表した東北楽天の斎藤隆だ。

「あと、3年早ければ……」。海を渡ると聞いた時、正直、そう思った。横浜時代の02年オフに斎藤はFA権を取得した。年齢的に考えれば、ラストチャンスである。だが斎藤はメジャーリーグとの交渉が不調に終わったことを受け、横浜と新たに3年契約を結ぶ。これは横浜に骨を埋めるつもりだな、と解釈した。

 ところが、3年後、斎藤は「自分の野球人生を成就させたい」と言って、ドジャースとマイナー契約を結ぶ。私には「成就」という言葉が「成仏」に聞こえた。今度は逆の感想を抱いた。「そこまでして行くことはないのではないか…」

 メジャーリーグでの斎藤の活躍は、改めて記すまでもない。7シーズンで計84セーブ。07年には37歳で日本人メジャーリーガー最速タイとなる99マイル(約159キロ)をマークしてみせた。

 日米を知り、先発も抑えも経験し、加齢とも戦ったオールド・ルーキーの引き出しには無数のソリューションが詰まっているに違いない。きっと、将来はいい指導者になるだろう。

<この原稿は15年8月19日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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