9月14日、愛媛FCは同日をもって望月一仁監督の解任が決定したことを発表した。望月監督は前日のJ2第39節徳島ヴォルティス戦で0−1と敗れた後、「個人的に5年間ありがとうございました」と辞任を示唆していた。15日のトレーニングよりクロアチア人のイヴィッツア・バルバリッチ氏が監督に就任する。
(写真:報道陣の質問に答える亀井社長(右)と佐伯GM)
 新たに監督となるバルバリッチ氏は1962年2月23日生まれの47歳。現役時代にはボランチ、DFと守備的な位置を務め、スペインリーグ1部のブルコスCFなどで中心選手として17年間プレー。旧ユーゴスラビア代表としても1988年のソウル五輪で前日本代表監督のイビチャ・オシム監督の下、ドラガン・ストイコヴィッチ現J1名古屋監督らと共に出場を果たしている。

 さらに、指導者としてもボスニア・ヘルツェゴビナリーグ、NKシロキ・ブリエッツ監督及びボスニア・ヘルツェゴビナ代表コーチを直前まで務めていたほか、欧州リーグで12年間の選手指導を経験。特にNKシロキ・ブリエッツではチームを1度の国内リーグ優勝及び国内カップ戦優勝、さらに1度のUEFAカップ本選出場に導いており、佐伯真道GMが「チームがこれからJ2下位から中上位につくために選手を鍛えながら上にあげていくしかない。サッカースタイル的に切り替えと運動量、規律とオーガナイズを持っているバルバリッチ氏はそれができる人材だと確信している」と話すのも充分うなずける実績を有していると言えるだろう。

 しかし、その一方でやはり問題としなくてはいけないのはシーズン途中での監督交代という決断を下したフロント側の責任である。

 確かに望月監督は今季当初からことあるごとに「5年間の総決算」を口にしていた。開幕こそ3連勝と好調な滑り出しをみせたものの、以降はケガ人が続出。一時はベンチ入り16名すら選手がそろえられない状態に陥った。最終的には2勝2分14敗と大不振に陥った第2クール終盤には「責任を取りたい」と今シーズン限りでの辞任を示唆していた。ただし、同時に「やりきりたい」と今シーズンを全うする意思も強く持っていたことも事実である。

 にもかかわらず、望月監督が強く望んでいたシーズン途中での選手補強にも立ち遅れ、結果的に愛媛FCをJ昇格に導いた“シンボル”に「解任」という大ナタを振るう状況をつくってしまった亀井文雄社長、佐伯GM以下、フロント側の責任は極めて重い。

 昨今の経済状況や4億8000万円というクラブの財政規模を鑑みれば有効な補強ができないフロント側の苦心も理解できないわけではない。だが、そこはファン、サポーター、愛媛県民の支持あってこその「愛媛FC」。このような悲劇を2度と繰り返さないためにも、クラブは今一度「現場の想い」に耳を傾けてみる必要がある。

 なお、記者会見の概要は以下の通り。

亀井社長: 愛媛FCは本日(9月14日)付をもって、望月一仁監督を成績不振により解任致しましたのでお知らせいたします。
 望月監督は2005年に監督に就任し、チームをJリーグに昇格させるなど、多大な功績を残してくれました。そのことについては感謝していますし、高く評価しています。
 ただし、昨シーズンはJ2の15チーム中14位という結果に終わり、望月監督からも「成績に対して申し訳ない。できれば辞任をしたい」ということも内々に相談がありました。そこで来季に向けた話し合いをした中で私は「成績は仕方がないにしろ、それで辞めてしまうのは男としてもダメではないか。それであれば頑張って成績を上げる努力をしてほしい」という話もして、2005年度からの3年契約と2008年度からの1年契約に加えて、今季の1年契約をお願いしたわけです。
 その中で(今季の)第2クールではケガ人の多さもさることながら5連敗。さらに1分けを挟んで5連敗という状況となり、我々としてはやはりチームを立て直すためにも望月監督続投でいいかを考えなくてはいけないということを思いました。
 役員の皆さん、株主の皆さんなどからのいろいろな意見もございましたが、我々としてはそれまで2010シーズンからの新体制を考えて動いていた新監督選定をより早く対応しなければいけないという結論に達し、このような形で皆さんにご報告する形になりました。
 本当に5年足らずではありますが、望月監督は単身赴任で努力をしてくれましたし、私自身は本当に感謝をしております。(ただし、)その中で今後の愛媛FCの来季、将来を考えると我々も目標もございますし、目標達成をさせるためにも改革をしていけなくてはいけない。その中で我々も苦渋の判断をさせてもらったというのが本音です。

――第3クールに入って成績も持ち直してきた中、シーズン残り12試合でのタイミングでの解任はなぜか?
亀井: さきほども申し上げましたが、第2クールの時点で「これは大変だ」という認識を持ちました。もちろん、気持ちの上では望月監督にやってもらいたい気持ちは持っていましたが、第2クールの成績がうまくいかなかったことで我々も早急に次期監督を考えなくてはいけないということと、今年は今年として考えたとしても来季以降を考えて判断すると、たとえば若手の育成や来季に向けての戦力補強を考えた場合、途中解任は我々の本意ではありませんが、タイミング的にはそうせざるを得なかったということです。
 第3クールは(第2クール最終戦からの)3連勝の後、1分1敗と進んで昨日の四国ダービーに臨んだわけですが、私自身は3連勝中も内容が根本的に変わってよくなったわけではないと判断しています。ケガ人の問題やいろいろなことがありますが、解任は様々な動きの中でたまたまこのタイミングになったというわけです。
 望月監督には基本的には今日付での解任ということですが、11日金曜日の練習後には話をして、「四国ダービーの試合を最後ということで頑張ってやってほしい」ということを申し上げました。

――昨日の四国ダービーの結果(0−1で敗戦)が解任に影響を与えた可能性はあるか?
亀井: 昨日勝ったから、負けたからという結果が解任に影響を与えることはありません。ただし、今までの流れの中、私自身も望月監督の性格はわかっていますし、昨年から苦労してきて、思うようにいかず彼なりに悩んできたことも肌で重々感じていました。それと単身赴任ということで苦労していることを考えると少しは楽にさせてあげたいという考えも正直、気持ちの中ではありましたし、四国ダービーで最後を飾らせてあげたい想いも自分の中ではありました。

――残りの試合は当面、誰が采配するのか?
亀井: 実は新しい監督はクロアチア人のバルバリッチ氏に決めております。明日(15日)に初めて練習に参加して指導し、選手たちとも顔を合わせることにしております。バルバリッチ監督に今季の残り試合と来季も任せる予定です。

――バルバリッチ氏にはいつオファーをかけたのか?愛媛FCにとって欧州とのルートは初めてだと思うが?
亀井: 先ほど申し上げたように5連敗後1分け挟んで5連敗の時期(7月末〜8月中旬)に来季の監督を含めて調査に入りました。情報についてはこれまで選手についてもそうですが代理人を通じての情報です。

――第3クールの内田選手、チアゴ選手などの補強は新監督の意向はあったのか?
亀井: 基本的にはそれはありません。

――サポーターには監督交代をどのように説明するのか?
亀井: サポーターのみなさんには8月1日の四国ダービーで0−6と大敗した後に大変お叱りを受け、8月14日に行われたサポーターズミーティングでも様々なご意見を伺いました。「フロントが情けない」という意見もいただきましたし、監督に対する評価も伺いました。その部分ではサポーターにお伝えするというより、このような(記者会見の)形でお伝えしたした方がいいと思いました。我々としてはこの会見を通じてサポーターの皆さんやファンの皆さんへもご理解いただけたらと思います。

――チームのスタッフにかんしてはどのようになるのか?
亀井: 通常、外国人監督についてはコーチやフィジカルコーチを連れてくる場合が多いですが、今季については監督おひとりと通訳を新たに雇う形になります。来季のフィジカルコーチなどについては現在検討中です。

――今、振り返ってみて望月監督のサポートが足りなかった部分はあるか?
亀井: ケガ人がこれほど出ることは予測していなかったし、今シーズンの23名スタートについても、望月監督とは「最初は少ない人数で進めるが、状況を見極めながら補強はしていこう」という形で話はしていました。望月監督もフロントサイドの状況は理解してもらってスタートしたわけです。我々としてもバックアップが足らないところはあったかもしれないが、流れの中では補強をしたり、いろいろな面ではバックアップをしてきたつもりです。

――シーズン途中の監督交代ということで選手のメンタルダメージもあると思うが?
亀井: いろいろな性格の選手もいるので、その点では動揺する選手もいると思います。ただし、我々としてはチームの打開に努め、若い選手の育成を含めた将来を見据えた上での監督交代ですし、それによってチャンスが生まれる選手もいると思います。基本的にはプロの選手ですから、その点において監督交代は理解してくれると思います。

――新監督を迎えて残りゲームの目標、来シーズンの目標はどこにおくのか?
亀井: 現在は18チーム中15位だが、今シーズンは11〜12位まではなんとかもっていく努力を監督にはしてもらいたいと思っています。また来季以降については、我々はもともとチームとして今季は1桁順位、来季は5位以内、3年後にはJ1昇格可能性がある順位・3位以内を目標として掲げているので、それにのっとった形で監督にもお願いしたいと考えております。
 もちろん、今の愛媛FCにおける環境もございますし、我々フロントも努力しなくてはいけませんが、バルバリッチ監督も我々の目標を理解してもらって1年だけでなく2年3年先の目標に向かってベース作りをしてくれる監督だと思っていますし、その点を期待しています。よってバルバリッチ監督とは今シーズンいっぱいの契約に加え、複数年契約の方向で現在交渉にあたっています。

――望月監督の解任は選手たちにいつ伝えられたのか?
佐伯GM: 昨日(13日)の徳島戦後、ロッカールームに選手全員を集めて望月監督が選手全員に伝えました。その後、私が解任に至る簡単な経緯を伝えました。新監督については明日(15日)のミーティングで選手たちに発表することになります。

(寺下友徳)

<寺下友徳(てらした・とものり)プロフィール>
1971年12月17日、東京都東村山市出身。
愛媛FCとの初対面は97年12月6日、西が丘で行われた天皇杯2回戦でのことだった。このゲームでは当時、JFLで最強を誇った東京ガスFC(現:FC東京)相手に延長戦まで大健闘した愛媛FCユース。そのひたむきな戦いに感動して以来、常に愛媛FCは気になる存在となる。そして昨年、縁あって関東から愛媛県松山市に移住してからは愛媛FCの練習、試合を深く取材中。いつの日かアジアの舞台でオレンジのユニフォームが躍動することを常に夢見ているフリーライター。