香港は雨季にさしかかり、湿度が高くなってきました。15日のサウスチャイナ戦は湿度90%以上。練習中も試合中も、こまめな水分補給が欠かせません。

 そんなサウスチャイナ戦は1-0の勝利。望んでいた勝ちにつながるゴールを決めることができました。前半29分、ダイビングヘッドでの得点です。右サイドでのFKが斜めに左サイドへ入り、それをホセがつないでくれて、僕がフリーで飛び込みました。

 追加点はあげられなかったものの、上位相手に1点を守り切っての白星は大きな価値があります。特に前の試合、僕たちは下位のユァンロンに1-3と取りこぼしていました。「こんな、もったいない負け方はできない」と全員が集中してゲームに臨めたように感じます。

 しかもホームでのリーグ戦は約2カ月ぶり。香港はエリアが狭く、ホームとアウェーの違いはほとんどないとはいえ、上位進出への生き残りをかけた一戦に1000人を超えるお客さんに来ていただきました。

 香港では通常、1試合の観客は500~600人程度。いつもの倍近く、スタンドが人で埋まると、スタジアムの空気は変わってきます。加えて試合の模様はテレビでも生中継されており、選手たちは一層、気合の入る状況でした。皆さんにいいゲームを見せられて本当に良かったです。

 もちろん、1000人でも観客が多いというのは日本のJリーグでは考えられないことでしょう。リーグも各クラブも集客には決して熱心とは言えず、いつ、どこで試合があるか、しっかり告知できていないのが実情です。ホームスタジアムが変わることもしばしばで、僕たちも昨季とは違う場所を本拠地にしています。

 ひとりでも多く人を呼ぶために、僕たちは勝って注目されるしかありません。サウスチャイナ戦の勝利で上位4強(キッチー、イースタン、サウスチャイナ、太陽ペガサス)に食い込むチャンスが出てきました。

 香港プレミアリーグでは優勝チームにACLのプレーオフ出場権が与えられます。そして2~5位はAFCカップ出場をかけたプレーオフに参加できます。現在5位のYFCMDは、アジアの舞台で戦える可能性が生まれているのです。

 またリーグ戦以外に、もうひとつ僕たちには大きな目標があります。トーナメントのFAカップ優勝です。2月28日の太陽ペガサス戦では1-1の同点のまま、PK戦にもつれこむ激闘を制し、準々決勝進出を決めました。

 この試合も先制ゴールをあげたのは僕です。後半24分、右サイドからのアーリークロスにホセがヘッドで合わせ、前線に送ってくれたボールを、僕が相手DFよりいち早く動き出してキープ。ワントラップして、飛び出してきたゴールキーパーの動きをみながら、誰もいないゴールに蹴り込みました。

 その後、同点に追いつかれ、僕は途中交代でベンチに下がったものの、残りの選手が粘ってくれてPK戦に突入します。YFCMDは早々に2人が外してしまい、苦しい展開。しかし、相手が、あと1本決めれば勝ちというキックをGKが止め、流れが変わりました。

 次の選手もプレッシャーがかかったのが外してしまい、5人が蹴り終わって3-3。圧倒的有利な状況をモノにできなかったペガサスと、絶体絶命の場面から息を吹き返した僕たちでは心理が全く異なります。延長PKを制し、劇的な勝ち上がりを決めました。

 試合前、僕たちはPK戦も想定した練習もしていました。PKはキッカーに「決めて当然」という雰囲気があり、非常に蹴りづらいものです。準備しておいたことが最後の最後で実を結んだのでしょう。

 僕もPK戦は好きではありませんが(苦笑)、蹴る時は無心でボールとGKに向き合うようにしています。「これを決めないと」「外したらヤバイ」といった余計な感情が入るとうまくいきません。

 当然、緊張やプレッシャーから逃れるのは難しいことです。そういう場合は「リラックスしなきゃ」と意識するのではなく、とことん緊張してみるのもひとつの手でしょう。追い込めるところまで追い込んでいくと、どこかで人間、開き直りの境地に入ります。それが意外と良い方向に出るものです。

 またルーティンを崩さないことも大事でしょう。僕はボールを置く際に、必ず空気穴のあるヘソの部分を蹴るところに持ってきます。これは小さい頃にサッカーを教えてもらったコーチから、「ボールのヘソは硬いから、思い切り蹴ると勢いが増す」と言われたからです。

 以来、PKになると必ずヘソを手前に置くのがクセになっています。正直、今の性能のいいサッカーボールではどこを蹴っても同じでしょう(笑)。それでも、いつもと違うことをやると外してしまいそうな気がするのです。

 香港に来て過去2シーズンは、リーグ戦では残留争い、カップ戦でも早々に敗退とチームとしての目標がなかなか持てない状態でした。でも、今季は違います。頑張り次第で上を目指せ、新たな戦いができるわけですから、自ずと「いい結果を出したい」と選手たちのモチベーションは高まっています。過去2年苦しんだ経験が糧となり、いいチームになってきました。

 リーグ戦は残り5試合。FAカップの準々決勝は4月11日に開催されます。相手は先日敗れたユァンロンです。次回、コラムをお届けする頃には、どちらも行方が見えてくるでしょう。

 日々、ハードトレーニングをし、試合でもハードワークすることなくして、いい結果は得られません。僕もチームも、このことを徹底して、また来月にいい報告ができればと思っています。

(このコーナーは第3木曜更新です)  
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