先日、終了したW杯、僕の優勝予想はアルゼンチンでした。残念ながらドイツに決勝で敗れてしまい、大当たりとはなりませんでしたが、延長までもつれこみ、どちらが勝ってもおかしくない試合だったと思います。

 僕がアルゼンチン推しだったのは、やはりFWリオネル・メッシの存在です。彼は大会前、バルサで不調が伝えられていました。それだけにこのW杯にすべてを賭けてくると感じたのです。

 年齢的にも27歳で選手としてピークを迎える時期。代表の中では優勝したワールドユースから一緒に戦ってきたメンバーもおり、今回が集大成になるのではないかとみていました。

 しかし、メッシ擁するアルゼンチン以上に、大会を通じて素晴らしいサッカーを見せてくれたのがドイツです。もともと下馬評が高かった中、優勝を勝ち取ったところにホンモノの強さをみました。

 ドイツの優勝の理由はいろいろと分析されていますが、やはりヨアヒム・レーヴ監督がコーチ時代から10年に渡って代表に携わり、しっかりとしたチームづくりをしてきたのが大きいでしょう。ポゼッションサッカーを基本としながら、相手や状況に合わせて柔軟に対応し、完成度の高い組織ができていましたね。

 パラグアイでプレーした経験上、南米の芝は足に絡みやすく、パスで細かくボールをつなぐスタイルには不向きです。スペインやイタリア、日本といったパスサッカーを志向した国が相次いでグループリーグ敗退を喫したのは、芝の影響もあったように感じます。

 しかし、ドイツはポゼッションサッカーでありながら引き出しが多いところが他とは違いました。名将ジュゼップ・グアルディオラ率いるバイエルン・ミュンヘン所属の選手が多く、日頃からコミュニケーションをとっている同士でプレーできたのも大きかったのでしょう。クラブでやっていることの延長線上に代表がある。これがドイツの強さの秘密だと思います。

 一方、日本は残念な結果に終わりました。「自分たちのスタイル」を全面に押し出そうとしたものの、結果的には、それが通用しなかった場合のオプションがありませんでした。しかも、「自分たちのスタイル」が大会中にブレてしまったのも成績を残せなかった原因でしょう。

 僕が期待していたマナブ(FW齋藤学)も、1度も出番なくW杯を終えてしまいました。ただ、彼はこの経験をバネに、さらにステップアップしてくれると信じています。トランポリンでも高くジャンプするには、一度、沈み込む時間が必要です。マナブにとっても、ブラジルの地は、ある意味で沈み込みの場だったのではないでしょうか。

 マナブには日本に戻ってから会う機会に恵まれましたが、もう視線は4年後をにらんでいました。敗退が決まった翌日には早速トレーニングを行ったそうですし、帰国後、マリノスの練習にも1日早く合流し、志願して練習試合にも出場したと聞きました。再開したJリーグではいきなりゴールも決め、ロシアW杯では、きっと代表の主力となってくれるでしょう。

 今回のW杯を見ていて、ひとつ驚いたのはメキシコ代表に元チームメイトがいたことです。DFパウル・アギラール。メキシコのパチューカで一緒にプレーしていました。当時はヤンチャな若者で、まさか、ここまでの選手になるとは想像もつきませんでしたね。テレビで彼の姿を見つけた時には思わず、「おおっ」と声を上げてしまいました(笑)。

 そんなW杯期間中、僕は約3週間、日本に一時帰国していました。最初の1週間は愛媛に行き、愛媛FCの試合を観戦したり、地元の新居浜でサッカー教室を行いました。

 次の1週間からは、横浜FCユースの練習に参加させてもらいました。昨年もユースの選手とトレーニングをしましたが、彼らの若いエネルギーからは僕もパワーをもらいます。メニューはグラウンド10周を2セット行う日もあり、なかなかハードでしたが、オフから体を目覚めさせるには最適だったと感じています。

 そして、7月6日には千葉のフクダ電子アリーナで開催させた松田直樹さんのメモリアルマッチにも参加しました。僕は千葉出身者やOBからなるCHIBA DREAMSの一員。名波浩さんらNAOKI FRIENDSと35分ハーフで対戦しました。

 参加メンバーで僕は唯一の現役選手です。まだシーズンへの体づくりの段階ながら、「この中で動けないとマズイぞ」と少しプレッシャーも感じながらのキックオフでした。

 2トップを組んだのはライバル市立船橋高のストライカーだったキタジ(北嶋秀朗)。お互い「夢の2トップ」だと言っていましたが、イベントとはいえ、彼と同じチームでプレーすることになるとは思ってもみませんでした。

 しかも、試合は1-1の同点から、僕が相手GKからのボールを奪い、フリーだったキタジへラストパス。彼の決勝ゴールをアシストすることができました。キタジはものすごく喜んでくれましたし、僕も現役の面目を保ててホッとしましたね(笑)。そして、素晴らしいメンバーとプレーできたことを誇りに思いました。

 さらに7月10日からは富山に行き、日本サッカー協会の「夢の教室」で夢先生を務めてきました。僕が訪れたのは滑川市の東部小学校。5年生の2クラスを対象に2日間、授業をしてきました。

 90分間の授業は、前半は体育館で全員が協力して体を動かし、目標を達成する運動を行い、後半は教室で夢について語る内容です。元気いっぱいで純粋な子どもたちに何をメッセージとして発信すればいいのか。短い時間で伝えたいことをまとめるのは非常に難しかったですね……。

 実は夢先生の前には、東京でも原宿のフットボールカフェ「MF」でトークショーをしました。大勢の人に集まっていただき、2時間30分、最後まで真剣に話を聞いてくださったのは本当にありがたかったです。

 現役生活が確実に残り短くなっている中、自らの体験を後進に引き継ぐことが重要な役目だと考えるようになってきました。そのスキルを磨くには実践あるのみ。今後もこういった経験を可能な限り増やし、多くの人に僕が学んできたことをうまく伝えられるようになりたいです。

 もちろん、まだ選手である以上、一番にやらなくてはいけないのはピッチで結果を出すこと。新シーズンから横浜FC香港は香港の企業が運営主体となり、「YFCMD」と名称が変わります。

 来週からは、いよいよ新チームでの始動です。内容の濃かった日本での3週間で多くの人と出会い、「また1年間頑張ろう」との気持ちを一層、強くしました。8月末の開幕までは、あと1カ月半。皆さんからいただいたパワーをゴールでお返しできるよう、万全の準備をしていきます。

(このコーナーは第3木曜更新です)
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