「悪性リンパ腫ですね」
 昨年末、大学病院で受けた検査結果を聞いて、頭の中が真っ白になった。

「それってまさか……」
 悪性リンパ腫は、血液のがんなのである。信じられない現実を突きつけられ、僕は茫然自失となった。

 前兆がなかったわけではない。
「このシコリ、気になる」
 両脇に大きなシコリがあることに気がついたのは、その数週間前だった。

 ウエイトトレーニングのアームカールをやっていると脇の奥に違和感があった。重い腰を上げ、近所の病院で診てもらったのは、クリスマスを迎える12月中旬だった。

「大学病院に紹介状を書きますので、すぐに行って下さい」
 院長のこの言葉を聞いて僕は嫌な予感がした。大学病院での検査結果が出るまでの間、ミヤマ☆仮面のイベントや撮影をこなしていたが、心ここにあらずといった感じの数日間を過ごした。

 2014年を締めくくる最後の仕事は、「闘うサラリーマン」こと寺島力さんに僕のかつての必殺技を公開練習で伝授するというものだった。寺島さんは、キリンビール「のどごし生」のTVコマーシャルで、リングに上がるという夢を叶え、長州力選手と対戦したことで一躍有名になったサラリーマンだ。3万5千通の応募から選ばれたのだからスゴイ強運の持ち主である。

 しかし、これはあくまでCMの企画であって本物の試合ではなかった。ところが、この1月31日に、あのボブ・サップ選手との試合が実現することとなったのだ。ニュースを目にした僕は、何か手伝いたいと強く思った。寺島さんとは、面識があったわけではないが、この無謀極まりない挑戦に心を動かされ、少しでも役に立ちたいと純粋に思ったのだ。

「そうだ、サップ選手に回転ヒザ十字固めを極めれば勝機があるのでは?」
 僕は、お節介と承知しながらも主催者に連絡し、サポートしたい旨を伝えたのだった。

「(佐々木)健介戦で使ったこの技はかなり有効だから絶対に使うべきだ」
 何が僕をここまで突き動かしたのかわからないが、話もトントン拍子に進んだ。ご本人も僕の東京ドームでの試合をしっかり覚えているそうで、是非とも教わりたいとの返事をいただいた。

 話を聞いていると彼とは意外なところでつながりがあった。実は、現在、『カッキーカッター』を伝承してくれている田中稔選手のバトラーツ時代の弟子だったそうだ。同じU系という共通点が見つかり、僕はさらに気合が入った。

 主催者側も公開記者会見を前に僕のコメントをマスコミに発表した。
「ボブ・サップ選手に挑む寺島力選手にかつての自分を見た気がしました。1995年の新日本vsUWFインターの全面対抗戦で、僕は体格もキャリアも上の佐々木健介選手と闘い、絶対不利と言われていました。しかし回転ヒザ十字固めで絶対不利の予想を覆し、UWFインターにとって貴重な一勝を挙げる事が出来ました。全ては“回転ヒザ十字固め”という技のお陰であり、身体の小さい者が大きな者を倒すのに最も適した技であると確信しています。以後はここ一番の切り札としてこの技を大切に使ってきました。ボブ・サップ戦に挑む寺島力選手、彼のこれ迄のキャリアを考えたら、それこそ震えが来るような大一番です。あらん限りの勇気を持ってこの闘いに挑む事と思います。それは昔に東京ドームで佐々木健介選手に挑んだ自分の気持ちと非常に似ているのではないかと思いました。そんな寺島選手の勇気に共感した私は、彼にこそ“回転ヒザ十字固め“を使って欲しいと考えております。今回の合同練習で寺島選手に完璧に“回転ヒザ十字固め”を伝授したいと思っております」

 しかし、公開練習が予定されていた12月27日は、前述の検査結果が出たため、僕の手術日と重なってしまい、代役をお願いしなければならなくなった(代役はボクシングの西島洋介さんが務めた)。

 いよいよ明日(1月31日)、石垣島でその試合が行なわれるが、寺島さんには観ている者に「勇気」を与える熱い試合をしてもらいたい。今回、セコンドに付けないのは本当に残念だが、病室から彼の健闘を祈っている。

 僕もこれからボブ・サップ以上のモンスターと闘っていかなければならない。僕の血液に潜む悪性リンパ腫は、かなり手ごわい相手となるだろう。
 
 悪性リンパ腫にもいくつものタイプがあるが、僕は濾胞性リンパ腫といって、再発が多く、完治が厳しいものであるようだ。その上、全身にそれが広がってきている。プロレスで言えば、カウント2.9の状態なのかもしれない。

 今、病気のことをとことん調べている。敵を知らないと攻略できないし、先生だけに任せておくという他力本願な姿勢が嫌だからだ。それと病気になった原因をじっくり考え、根本的なところから変えていかないと駄目だと思っている。

 血液の病気であることを考えると食事に問題があったのは間違いないであろう。これまで僕は、筋肉をつけることばかりに目がいき、とにかく、たんぱく質を摂ることに力を入れてきた。それにスイーツ好きも問題ありだったと思われる。つまり、過度のたんぱく質、砂糖や油の摂取。これこそが病気を作り出した原因であると確信している。

 がんは、栄養・代謝の摂食障害と本に書かれてあるのを目にした。きっとミネラルやビタミンが細胞にしっかりと行き届いていなかったのだと思う。現在、肉や魚などの動物性のたんぱく質や塩分、砂糖、油のカットをしていき、新鮮な野菜や果物を大量に摂取するという食事療法を行なっている。正直かなり過酷である。

 食事を基本としながらも免疫療法など良いと思われるものは何でも取り入れて試している。もちろん、これに現代医学の化学治療をメインに行なっていく予定だ。

 西洋医学と東洋医学の良い面を取り入れ、正面からぶつかっていきたいと思う。僕は、難攻不落の不治の病からスリーカウントを獲るべく、ネバーギブアップの精神で最後まで戦い抜くつもりだ。

(このコーナーは今月に限り、第5金曜日に更新します)
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