「がんには、ゲルソン療法が効くみたい」
 娘が、海外に留学中の友人から入手した情報を興奮しながら僕に話してくれた。

 昨年末にがん患者となった僕は、多くの情報を必要としていた。
「ゲルソン?……聞いたことはないけどトライしてみようかな!」

 娘の真剣な眼差しを見ていると直感的にこれだと感じた。僕はすぐにゲルソン療法について書かれてある本に片っ端から目を通し、自分なりに研究してみた。調べていくうちに栄養療法であるこの治療法に大きな可能性を感じるようになった。

 結論から言うと、やってみる価値のある方法だと強く思った。はじめは食事でがんが治せるとは考えなかったが、分子栄養学をわかりやすく説明しているゲルソン療法には説得力があった。血液のがんである悪性リンパ腫を克服するには、血液を造る食事しかない!

「よし! 覚悟を決めてやっていこう」
 
 ただし、ゲルソン療法はかなり厳格なので、これを続けるには家族の協力も不可欠だ。しかも再発防止を考えれば一時的だけではなく、一生続けなければならない。今の僕のように極限まで追い込まれていないと続けるのは困難だろう。

「パパ、頑張って! 絶対に大丈夫だから」
 子どもたちのこんな言葉を聞いていたら、石にかじりついてでもやり遂げるしかない。
「よし! 自分が良いと判断したからには、全力で取り組んでいこう」

 幸いにも入院(1月中旬)までしばらく時間があったので、早速、このゲルソン療法に取りかかった。要となるのは、新鮮なミネラルとビタミンを大量にカラダへ取り込むことだという。

 基本は、人参とリンゴをベースとした野菜果物ジュースだった。本には、なんと1時間ごとに計13回も飲むと書かれてあった。

 さすがにこれを忠実に再現するのは不可能に近いので、1回の摂取量を増やしてトータルの回数を減らし、総量は同じにした。そうしないと作るほうだって倒れてしまう。

 ジュースに使用する野菜は、無農薬のものを使用しないといけないため、近所の農家を探し歩いた。なんとか生産者の顔が見える無農薬野菜を運よく見つけることができた。そして、泥のついた人参を洗うところからジュース作りがスタートしたのであった。

 野菜は、ジュース以外でもサラダにしたり、温野菜にして大量に食べなくてはならない。野菜は嫌いなほうではないので大丈夫だろうと安易に思っていたが、これが甘かった。なんとゲルソン療法では、ほとんどの調味料が禁止されているのだ。つまり、塩や醤油、マヨネーズ、ケチャップなどを一切使用できないのである。

「野菜本来の味を楽しめて幸せだよ」
 このように自分を言い聞かせて我慢して食べるしか方法はない。レモンやはちみつ、黒糖、亜麻仁油を使って食べる手もあるが、日本人には塩を抜くのが一番堪える。

 このような食生活を続けていることを新日本プロレスの永田裕志選手に話す機会があった。「それはかなり大変ですね」と彼も驚きを隠せなかった。

 もうひとつゲルソン療法には過酷さの極みがある。なんと
『動物性のたんぱく質は全面禁止』なのだ。僕はずっと肉食中心であっただけに頭を抱えた。

 レスラー時代、何度も一緒に食事をしていたことがある永田選手も、さすがに肉抜きには言葉を失っていた。カラダが資本のレスラーは肉を食べないなど考えられないからだ。

 現在もトップで活躍している永田選手は、特別な食事制限などはしていないようだが、アルギニンとシトルリンというアミノ酸のサプリメントを愛用し、良いコンディションをキープしているそうだ。
「やはりサプリもダメですよね?」
 勘の良い永田選手だけに、この食事療法の厳格さをすぐに理解していた。

 それにしても46歳を迎える永田選手は、本当にコンディションが良くて羨ましい。つい先日もタイトルマッチに挑戦したばかりだ。服の上からも筋肉が隆起しているのがわかる永田選手のカラダを見ていると、どんどん筋肉が失われていく自分がひどく惨めに感じた。

「この先、ミヤマ☆仮面をどうしよう……」
ミヤマ☆仮面は筋肉が売りのひとつだけに大きな焦りを感じた。
「牛や豚だけの禁止ならわかるけど、鶏肉や魚すらもダメっていうのは、筋肉をつけるのをあきらめろってことかな」
 僕は急に将来への絶望感に襲われた。

 植物性たんぱく質を含む大豆などはかろうじて許されているものの、以前のような筋肉をキープするのは、かなり厳しいだろう。病気を倒すのが先決なのは頭では理解できるが、ついついツライ感情に支配され、冷静に物事が考えられなくなる。

「とにかくゲルソン療法を信じよう」
 そう自らに言い聞かせている日々である。

(このコーナーは第4金曜日に更新します)
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