「やっぱり新日本に帰ってきてくれたか~」
 先月行なわれた新日本プロレスの両国大会に突如、ヨシタツ選手が現れた。ハクをつけて凱旋帰国したヨシタツが選んだのは、古巣である新日本プロレスであった。6月にWWEを退団したのを知り、その後を心配していただけに日本で元気な姿を見ることができたのはうれしい。

 毎年、彼が出場するWWEの日本公演へ家族全員で応援に行くのが楽しみだっただけに退団した時のショックは大きかった。しかし、長きに渡り、世界のトップ団体に所属できたことは大いに胸を張っていい。その成果を出すのに新日本はベストなリングだろう。

 22日から開幕した「ワールドタッグリーグ」では、新日本の現チャンピオンである棚橋弘至選手と組んで出場するというVIP待遇を受けた。彼への期待のほどがうかがえる。

 そんな大注目のヨシタツ選手にいくつかの質問をぶつけてみた。実は、22日の試合後、首を骨折していたことが判明し、全戦欠場となってしまったのだが、以下の内容はその前に聞いた話である。

 まず、WWEに在籍した頃に肉体改造を図っていたと思われるが、具体的にどのような方法で絞っていたのだろうか? 日本にいる頃は、お世辞にも良いカラダではなかっただけにとても気になった。
「日本ではウエイトトレーニングが中心でしたが、アメリカに来てからは、カーディオトレーニング(有酸素運動)を取り入れたり、ウエイトにカーディオを織り交ぜたコンディショニングトレーニングをしていました」

 僕もカラダを絞っているので、ウエイトトレーニングだけではなく、腕立てなど自重トレーニングを組み合わせている。さらに有酸素運動を取り入れると効果が大きいのかもしれない。早速、僕も試していきたいと思う。

 そして、気になる食事についても教えてもらった。
「食事はタンパク質を中心に、チキンブレストのサラダが中心です。カーボ(炭水化物)やシュガー、オイルなども少量です。週に1食だけ何でも食べていいチートミールを設けているので何とか耐えられます」

 日本と違い、カロリーが高いメニューが多い外国で、この食生活をキープするのは至難の業であっただろう。僕も月数回の遠征以外は、外食をしないよう徹底しているが、年中旅をしているWWEだとそうはいかない。かなりの節制が必要だったと思われる。

 ただ、チートミール(何でも食べてよい)の日を上手に使い、それぞれの国の食文化にもしっかりと触れていたようだ。WWEは、世界中を遠征するのだから、訪れた土地のおいしい食事を食べないともったいない。ヨシタツ選手はこれまで、およそ30カ国で試合をしたという。それだけの数の食文化に出合えたのだから羨ましい限りである。

 彼が世界のリングで活躍できたのは肉体だけではなく、当然ながらレスリング技術が向上したからだろう。日本では山本小鉄さんや木戸修さんにコーチしてもらっていたが、アメリカでは、あのリッキー・スティムボードに教わったそうだ。日本とアメリカの教えはどう違っていたのであろうか?

「山本(小鉄)さんに教わったのは主に日本のオールドスクールの精神論が中心でした。木戸さんには、舐められたらこの仕事は終わりだという考えの下、“舐められないように強くなれ”という、やはり精神論が中心だったと思います。リッキーからは意外かも知れませんが、そういった精神論は皆無で、アメリカンプロレスの技術とサイコロジーを習いました。(WWE傘下の)ECWでデビューした頃、徹底的に叩き込んでもらったので、あの後の成功があったのだと思います」

 昭和のプロレスは、ファンに強さへの幻想を抱かせるところが特徴だった。その精神を新日本の道場で、若手選手は徹底的に刷り込まれる。一方、アメリカにはそれがないのだから、合理的にリング上のスキルのみを教えてもらえるのだろう。おそらく、この両方があってこそ、ヨシタツ選手はバランスが取れたレスラーになり得たのかもしれない。

 彼にWWEへ行って、一番学んだことを問うと「このビジネスに対する考え方」と即答した。彼は良い意味でアメリカのレスリングビジネスを学んで帰ってきたのである。

 そして、何よりも彼にとって大きな収穫はスーパースターのロックと出会ったことだろう。
「ロックとは、何度もケイタリングでいっしょにご飯を食べたり、話したりしました。彼は人に気をつかわせない人です。あれだけのスーパースターでそれができるなんて本当にすごいと思います」

 ロックのこの立ち振る舞いをそばで見られたのは、彼の大きな財産になるはずだ。レスリングだけでなくムービースターとしても大きな成功を収めているロックと接した経験を是非とも生かしてほしい。そして、もうひとりのスーパースターであるランディ・オートンからも大きな刺激を受けたようだ。

「(オートンは)ファンや周りのレスラーが思っているより全然マジメでしっかりしている。というかこのビジネスに対して人よりも全然ストイック。人に媚びず、あのポジションに居続けているのを尊敬します」

 オートンは素行不良という噂を聞いたことがあるが、それは間違いであったようだ。現場にいた生の声を聞けて、WWEのファンとしては、この上なくうれしい。

 ヨシタツ選手は生存競争の激しいWWEで、ずば抜けた才能や身体能力を持ち合わせていないにもかかわらず、6年もの長きに渡り契約を続けてこられた。そのなぞに迫ってみた。

「自分に才能がないことは自分が一番よくわかっていたので、人の何倍も努力して、その穴を埋めてきました。あとは人間関係。そこを上手くできないヤツは長生きできないことを知っていたからです」

 レスラーとして努力するのは当然のことだ。しかし、そればかりに集中しすぎて人間関係を軽視してしまう者も多い。異国から来た人間ゆえに、彼はそこのところに人一倍神経をつかったのかもしれない。

 最後に今後の目標を尋ねると、やはり彼の目は世界に向いていた。
「IWGPヘビーウエイトチャンピオンになり、IWGPを、新日本プロレスを、世界に出すことです」

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)
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