日本代表・香川真司のマンチェスター・ユナイテッド入りがクラブの公式サイトで発表された。ブラジルW杯アジア最終予選の戦いに臨んでいる香川本人は「まだ完全合意したわけではない」としているが、ドルトムントとのクラブ間交渉が合意に達したということだろう。後は12日のオーストラリア戦を終えた段階で本人がサインを済ませ、晴れてマンUの一員となるわけだ。



注目したいのは背番号だ。ここからクラブの期待がどれほどまでなのか読み取ることができる。一部の報道によるとクラブ側は背番号7か8を検討しているという。もしこれが本当であれば、香川に対する期待値は相当なものだ。



まずマンUの「7」が“スーパースターナンバー”であることは誰もが知るところ。古くはジョージ・ベスト、ブライアン・ロブソン、そしてエリック・カントナ、近年でもデビッド・ベッカム(現LAギャラクシー)、クリスティアーノ・ロナウド(現レアル)が背負ってきた。



2011-2012シーズンまでマイケル・オーウェンがつけていたが、彼の退団に伴って栄光の7番が宙に浮いている状況。そこで香川の名前が挙がっているのだという。もし実現すれば、アレックス・ファーガソン監督が香川を控え扱いなどではなく、あくまでレギュラーでチームの新しい柱として期待していることがうかがえる。



また「8」も香川にとっては魅力的だろう。セレッソ大阪でつけていた番号であり、本人にとっては愛着のある数字。現在はブラジル人のボランチ、アンデルソンがつけているが、今10番をつけているウェイン・ルーニーもエバートンから移籍当初、8番をつけていた。クラブ側にとって8番も期待値の大きさを示す背番号であると言える。



しかし、マンUのサポーターからしてみれば「7」と「8」は同列ではない。エースナンバーはあくまで「7」。選ばれた者しか、身につけることはできないのだ。



7番となれば香川にとってビッグクラブでプレーする重圧ばかりでなく、スーパースターの番号を引き継ぐプレッシャーものしかかる。2列目にはナニ、アントニオ・バレンシア、アシュリー・ヤングらタレントがそろっているが、レギュラー争いを繰り広げる彼らのライバル心も一層強いものになってくるはずだ。



少し気楽にやるなら8番のほうがいいだろうが、背番号「7」が空くタイミングで移籍するあたりはやはり香川に「持ってる」感がある。こんなチャンスはめったにない。もし香川が選択できるとすればぜひ「7」でチャレンジしてもらいたい。



日本代表でも10年近く代表のエース番号「10」をつけた中村俊輔(横浜FM)が代表引退の意向を示したタイミングで、香川がその後継に選ばれた。エース番号を背負う宿命にあるのだとつくづく感じてしまう。





ザックジャパンでの香川は常に「10」番の重圧と戦っている。

チームが負けてしまえば批判は彼に集まる。2月、ホームで0-1のスコアで敗れてしまったウズベキスタン戦では気持ちが空回りしてしまい、トップ下で輝きを放てなかった。だが、先のオマーン戦では全3得点に絡む働きを見せた。重圧を克服しながら成長を続けている。重圧のかかる背番号だからこそ、それを乗り越えることができればさらに飛躍できるというものだ。



たかが背番号というなかれ。

本田圭佑(CSKAモスクワ)は自らの意思で代表の背番号を「18」から「4」に変更した。



「周りは違和感があるというけど、その違和感は常識にとらわれているから。4番が守備的だというイメージを払拭したい。日本でエースストライカーの番号になったっていい。(18番は)もともと与えられた番号だし、好きか好きじゃないかと聞かれたらあんまり好きじゃなかった」



現在、攻撃的な選手で背番号4をつけているのはバルセロナで活躍するセスク・ファブレガスぐらい。日本代表でもこれまで井原正巳、田中マルクス闘莉王(名古屋)らセンターバックのイメージが強かったが、本田はこのイメージを払拭してみせるという。



自分のイメージに合う番号、向上心をくすぐることのできる番号を探し、背番号4に自分の色をつける覚悟を示している。香川にも本田のような気構えが多少なりとも必要になってくる。



背番号は自らを映す鏡。マンUの7番ともなれば、ピッチ外でも7番の振る舞いを心がけなければならない。繰り返しになるが、それを重圧と考えず、前向きに捉えることで精神的にもまたひと回り大きくなるはずである。



7番か8番か、それともドルトムントでつけた23番(現在はトム・クレバリー)か。

香川がもし7番以外を選択したとしても、いずれはマンUの象徴である「7」を背負うという野望は持っていてもらいたい。それぐらいの心構えがなければ、猛者ぞろいの連中とポジションを争えない。マンUでの戦いは、もう始まっている。



(この連載は毎月第1、3木曜更新です)


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