日本のプロ野球において、三冠王(打率、打点、本塁打)は過去に7人(王貞治とランディ・バースは2回、落合博満は3回)が達成しているが、盗塁王も含めた四冠王となると、ひとりもいない。
過去に三冠を獲ったバッターでも、その年の盗塁となると、1982年の落合博満の8個が最高である。


夢の四冠王――。今季、このとんでもないタイトルに挑戦しているのが東京ヤクルトの山田哲人である。

9月14日現在、打率3割2分7厘(2位)、打点88(2位)、本塁打34本(1位)、盗塁30個(1位)と、いずれも2位以内につける。
プロ野球の世界では「打率3割、本塁打30本、盗塁30個」以上を「トリプルスリー」と呼ぶが、これも達成可能な成績である。

昨季は北海道日本ハムの“二刀流”大谷翔平が、プロ野球史上初の2ケタ勝利、2ケタ本塁打を達成して話題になったが、四冠王ともなると難易度の高さはそれに勝るとも劣らない。

目下、防御率3位の巨人・菅野智之は「泳がされても体が前に出てこない。空振りする時でも、自分のポイントで振っている」と強打の秘密を語っていた。

この山田、5年前のドラフト1位だが、“ハズレのハズレ”だったことを覚えている人は、徐々に少なくなってきている。
ヤクルトが指名したのは早大の斎藤佑樹(北海道日本ハム)。クジにはずれるや、「みちのくのドクターK」と評価の高かった八戸大の塩見貴洋(東北楽天)に乗り替えた。

しかし、運に見放された小川淳司監督(当時)はこれもはずし、最終的に落ち着いたのが大阪・履正社高の山田だった。

あそこで、もし小川が2度くじをはずさなかったら……。山田がヤクルトのユニホームに袖を通すことは、まずなかっただろう。このように人の運とは、球団の運とは、時間が経たなければわからないものだ。

久しぶりの豊作といわれる今ドラフトも、そうした視点で見つめてみたい。

<この原稿は『週刊大衆』2015年9月21日号に掲載された原稿を一部再構成したものです>


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