2、3カ月前のことになりますが、靴職人として有名な三村仁司さんへのインタビューに同行した時のことです。三村さんのラボは兵庫県加古川市にあります。前日、講演のために出張していた編集長は広島から、私は東京から向かい、加古川駅で待ち合わせをしました。

 先に加古川駅に到着した私は、改札の前で編集長を待っていました。編集長が乗っているはずの電車が到着し、改札にはゾロゾロと乗客が改札に向かって歩いてきます。私は編集長を見逃すまいと、目をこらして見ていました。

 身長が180センチある編集長を集団の中で見つけるのは、そう難しいことではありません。ところが、その時はなかなか見つかりませんでした。
「まさか、電車に乗り遅れたのかな……」
 そう思っていると、黒縁のメガネをかけた見知らぬ男性が私の方へと歩いてくるではありませんか!
「えっ、な、何……!?」
 ひとりあわてていると、その男性が手を挙げながら「お疲れさん」と話しかけてきたのです。
「あれ、なんか聞いたことのある声……」
 よく見てみると、なんとその男性は編集長でした。

「編集長!? そのメガネ、どうされたんですか?」
「最近、移動の時はよくかけているんだよ」
「そうだったんですね。でも、そのメガネいいですね。すごく似合っていますよ。メガネかけた方が、落ち着いた感じがしていいですね」
「そうか? メガネかけた方がいいか?」
「はい、私はそう思いますけど」

 そんな会話をしながらタクシーに乗り込みました。すると、編集長はメガネを取って、そのままカバンの中に入れてしまいました。不思議に思った私が、「編集長、ケースはないんですか? そのメガネ、高いんですよね」と聞くと、編集長はこう言ったのです。
「いやいや、安物だよ。どうせ、そのうち失くしちゃうからさ!」

 どうやらその言葉通りになったようです。最近、めっきりメガネ姿の編集長を見ることはなくなりました。編集長の予言は、恐ろしいくらいに当たります!

(スタッフS)
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