高橋(県岐阜商高)はソフトバンク、高山(明大)は阪神 ~プロ野球新人選択会議(ドラフト)~
日本野球機構(NPB)は22日、「新人選択会議」(ドラフト)を都内ホテルで行った。1位指名は高校No.1右腕の高橋純平(県岐阜商高)を中日、北海道日本ハム、福岡ソフトバンクと最多の3球団が競合。抽選の結果、ソフトバンクが交渉権を獲得した。東京六大学野球の通算安打記録を更新した高山俊(明治大)は阪神、東京ヤクルトの2球団が、今年の甲子園で仙台育英を準優勝に導いた強打者・平沢大河は東北楽天、千葉ロッテの2球団が指名を重複した。くじ引きの結果、阪神とロッテが交渉権を得た。
そのほかのドラフト1位はオリックスが大学生日本代表で4番を務めるスラッガーの吉田正尚(青山学院大)を、横浜DeNAは今永昇太(駒澤大)、埼玉西武は多和田真三郎(富士大)、広島は岡田明丈(大阪商業大)、巨人は桜井俊貴(立命館大)と即戦力投手を単独指名で交渉権を獲得した。
抽選で外れた中日と日本ハムは甲子園優勝投手の小笠原慎之介(東海大相模)を1位指名し、再び重複する。当たりくじは中日が引き当てた。楽天は身体能力の高い高校生野手のオコエ瑠偉(関東第一)、ヤクルトは東都大学野球2部優勝に導いた右腕・原樹理(東洋大)をハズレ1位で指名した。高橋、小笠原と高校生投手で連敗した日本ハムは、東京六大学通算14勝左腕の上原健太(明治大)を選んだ。
独立リーグでは四国アイランドリーグPlusから松本直晃(香川)が西武に10位指名された。育成指名はアイランドリーグから5名、BCリーグから6名が選ばれ、球団別ではBCリーグの武蔵が最多の5名だった。独立リーグ・グランドチャンピオンシップを制した愛媛からは1人も選出されなかった。
鷹と燕、日本シリーズ前に明暗
「残ってくれればいいなと思っていました」。3球団が競合した高校NO.1投手を、抽選で最後にくじを引くこととなった工藤監督は、“残り物には福がある”ことを期待した。
NPBで通算224勝を挙げた利き腕の左ではなく、右手でくじを掴んだ。初の抽選を経験したため、開いてからも“当たり”に気付くのは少し遅れた。交渉権獲得を確信すると、左手を挙げてガッツポーズ。見事に最速152キロ右腕の高橋を引き当てた。
52歳の新人監督は、高橋をこう評価する。
「ただ速い球だけでなくて、真っすぐ、カット、スライダー、カーブと速い球も遅い球も持っている。注目された中で、そこから自分の意識を高めて“野球をうまくなりたい”という気持ちも芽生えたとの話も聞きました。スマートな選手であり、野球に対して謙虚さ、真面目さもある。常に上を目指そうと、気持ちの強い選手」
球速や球種といったピッチャーとしての能力で見ているわけではない。素質のある選手がたくさんいる中で、高橋を選んだ理由を工藤監督は「自分なり工夫したり、トレーニングメニューを考えたりするのは大切な能力のひとつ。そういうところを兼ね備えている投手」と挙げた。
高橋は高校最後の夏は、左足のケガのため投げることができず、甲子園出場は叶わなかった。将来のエース育成に工藤監督は「故障した箇所は野球をやっていく上で心配するところではない。そこは鍛えていけば次からやらなくする。サポートできる自信はある。彼の成長を妨げることにはならないと思います」と不安は微塵もないようだ。
「目指すのはエース。日本を代表するピッチャーになれる」。高橋の才能に太鼓判を押す工藤監督。逸材の交渉権獲得に笑顔を見せた。
ソフトバンクと日本シリーズで対戦するヤクルトは、公言通りに明大のヒットメーカー・高山を1位指名した。ヤクルトの一本釣りも予想されたが、ペナントレースで苦汁を舐めさせられた阪神が“待った”をかけた。
ヤクルトを14年ぶりにリーグ優勝、日本シリーズに導いた真中満監督と、猛虎復活を託されている金本知憲新監督の一騎打ちとなった。現役時代は左バッターだった両者は、左手でくじを引いた。先手の金本監督は、抽選箱の中から一度手にしたくじを持ち替えた。工藤監督同様に残ったくじを選ぶこととなった真中監督は開封した瞬間、手を挙げて喜んだ。
「ドキドキした。三拍子揃ったチームを代表する選手になって欲しい」。真中監督は、喜びのコメントを口にしたが、席に戻ってから事態は急変した。実は真中監督、くじを開いてからNPBの刻印を交渉権獲得と勘違いしてしまっていた。金本監督は隣でガッツポーズを作ったのを見て、そのままくじを確認しなかった。
その後、NPBの確認により交渉権獲得の訂正が発表された。クライマックスシリーズ・ファイナルステージでは早め早めの継投で、巨人を破った真中監督だったが、今回ばかりは“早とちり”となった。
将来性豊かな左打者は、阪神とロッテへ
一方で「ビデオ判定でホームランに覆った」と“逆転弾”を喜んだのが、阪神の金本監督である。高山は高田繁(現DeNAゼネラルマネジャー)が明大時代に樹立した127本の通算安打数リーグ記録を48年ぶりに更新し、131安打まで伸ばしている“東京六大学の安打製造機”だ。
阪神の平塚克洋スカウトは高山を「巧みなバットコントロールに加え、脚力も備えている三拍子揃った選手。体が強く、練習熱心な面もあり、今後は更なる技術向上が期待できる。将来はチームの中軸打者として期待したい」と高く評価。金本監督は「将来性を見込んで指名した」と即戦力としてではなく次代のクリーンアップに期待する。
金本監督自身は猛練習で強靭な肉体を作り上げ、1492試合連続フルイニング出場という偉業を成し遂げた。テレビ中継では「練習はきついよ」と高山に投げかけた。「僕と掛布(雅之)さんでしっかりやっていきたい」。猛虎打線を牽引した左の強打者たちが、英才教育を施す。
宮城出身の平沢には、地元を本拠地に置く楽天に加え、ロッテも指名に名乗りを挙げた。2012年から森雄大(2球団)、松井裕樹(5球団)、安樂智大(2球団)と3連勝中の楽天・立花陽三球団社長にロッテ・伊東勤監督が挑んだ。
ともに右手でくじを掴み、開封した。驚異的な引きの強さから“神の手”と謳われた立花社長だったが、ガックリと肩を落とし、両ヒザに手をついた。連勝を3でストップさせた伊東監督は「交渉権獲得」と書かれた当たりくじを右手で小さく掲げた。
「是非ともウチに必要。将来的には野球界を背負って立つスーパースターになると思います」。伊東監督は平沢を大絶賛する。日本球界屈指の名捕手が、走攻守揃った超高校級ショートの交渉権を見事にキャッチした。
今回のドラフトで育成枠を含め、合計116名が指名された。内訳は高校生が40名、大学生が37名、その他が39名。116の煌めく原石たちに、プロへの道が拓かれた。彼らがダイヤモンドの輝きを纏えるか。磨く側の腕前も問われている。
<交渉権獲得選手>
東京ヤクルト
【1位】 原樹里(東洋大・投手) ※高山の外れ指名
【2位】 廣岡大志(智辯学園高・内野手)
【3位】 高橋奎二(龍谷大平安高・投手)
【4位】 日隈ジュリアス(高知中央高・投手)
【5位】 山崎晃大朗(日本大・外野手)
【6位】 渡邉大樹(専大松戸高・内野手)
福岡ソフトバンク
【1位】 高橋純平(県岐阜商高・投手)
【2位】 小澤怜史(日大三島高・投手)
【3位】 谷川原健太(豊橋中央高・捕手)
【4位】 茶谷健太(帝京第三高・投手)
【5位】 黒瀬健太(初芝橋本高・内野手)
【6位】 川瀬晃(大分商高・内野手)
【育成1位】 野澤佑斗(つくば秀英高・投手)
【育成2位】 児玉龍也(神奈川大・投手)
【育成3位】 樋越優一(東京農業大北海道オホーツク・捕手)
【育成4位】 中村晨(ルーテル学院高・投手)
【育成5位】 渡辺健史(飯塚高・投手)
巨人
【1位】 桜井俊貴(立命館大・投手)
【2位】 重信慎之介(早稲田大・外野手)
【3位】 與那原大剛(普天間高・投手)
【4位】 宇佐見真吾(城西国際大・捕手)
【5位】 山本泰寛(慶應義塾大・内野手)
【6位】 巽大介(岩倉高・投手)
【7位】 中川皓太(東海大・投手)
【8位】 松崎啄也(日本製紙石巻・内野手)
【育成1位】 増田大輝(徳島インディゴソックス・内野手)
【育成2位】 小林大誠(武蔵ヒートベアーズ・捕手)
【育成3位】 松澤裕介(武蔵ヒートベアーズ・外野手)
【育成4位】 田島洸成(武蔵ヒートベアーズ・内野手)
【育成5位】 大竹秀義(武蔵ヒートベアーズ・投手)
【育成6位】 山下篤郎(鎮西高・投手)
【育成7位】 矢島陽平(武蔵ヒートベアーズ・投手)
【育成8位】 長谷川潤(石川ミリオンスターズ・投手)
北海道日本ハム
【1位】 上原健太(明治大・投手)※高橋、小笠原の外れ指名
【2位】 加藤貴之(新日鉄かずさマジック・投手)
【3位】 井口和朋(東京農業大オホーツク・投手)
【4位】 平沼翔太(敦賀気比高・内野手)
【5位】 田中豊樹(日本文理大・投手)
【6位】 横尾俊建(慶應義塾大・内野手)
【7位】 吉田侑樹(東海大・投手)
【8位】 姫野優也(大阪偕星学院高・外野手)
阪神
【1位】 高山俊(明治大・外野手)
【2位】 坂本誠志郎(明治大・捕手)
【3位】 竹安大知(熊本ゴールデンラークス・投手)
【4位】 望月惇志(横浜創学館高・投手)
【5位】 青柳昇洋(帝京大・投手)
【6位】 板山祐太郎(亜細亜大・外野手)
千葉ロッテ
【1位】 平沢大河(仙台育英高・内野手)
【2位】 関谷亮太(JR東日本・投手)
【3位】 成田翔(秋田商高・投手)
【4位】 東條大樹(JR東日本・投手)
【5位】 原嵩(仙台松戸高・投手)
【6位】 信樂晃史(宮崎梅田学園高・投手)
【7位】 高野圭佑(JR西日本・投手)
【育成1位】 大木貴将(香川オリーブガイナーズ・内野手)
【育成2位】 柿沼友哉(日本大国際関係学部・捕手)
広島
【1位】 岡田明丈(大阪商業大・投手)
【2位】 横山弘樹(NTT東日本・投手)
【3位】 高橋樹也(花巻東高・投手)
【4位】 船越涼太(王子・捕手)
【5位】 西川龍馬(王子・内野手)
【6位】 仲尾次オスカル(Honda・投手)
【7位】 青木陸(山形中央高・内野手)
埼玉西武
【1位】 多和田真三郎(富士大・投手)
【2位】 川越誠司(北海学園大・投手)
【3位】 野田昇吾(西濃運輸・投手)
【4位】 大滝愛斗(花咲徳栄高・外野手)
【5位】 南川忠亮(JR四国・投手)
【6位】 本田圭佑(東北学院大・投手)
【7位】 呉念庭(第一工業大・内野手)
【8位】 國場翼(第一工業大・投手)
【9位】 藤田航生(弘前工高・投手)
【10位】 松本直晃(香川オリーブガイナーズ・投手)
中日
【1位】 小笠原慎之介(東海大相模高・投手)※高橋の外れ指名
【2位】 佐藤優(東北福祉大・投手)
【3位】 木下拓哉(トヨタ自動車・捕手)
【4位】 福敬登(JR九州・内野手)
【5位】 阿部寿樹(Honda・内野手)
【6位】 石岡諒太(JR東日本・内野手)
【育成1位】 中川誠也(愛知大・投手)
【育成2位】 吉田嵩(徳島インディゴソックス・投手)
【育成3位】 三ツ間卓也(武蔵ヒートベアーズ・投手)
【育成4位】 西濱幹紘(星城大・投手)
【育成5位】 呉屋開斗(八戸学院光星高・投手)
【育成6位】 渡邊勝(東海大・外野手)
オリックス
【1位】 吉田正尚(青山学院大・外野手)
【2位】 近藤大亮(パナソニック・外野手)
【3位】 大城滉二(立教大・内野手)
【4位】 青山大紀(トヨタ自動車・投手)
【5位】 吉田凌(東海大相模高・投手)
【6位】 佐藤世那(仙台育英高・投手)
【7位】 鈴木昂平(三菱重工名古屋・内野手)
【8位】 角屋龍太(ジェイプロジェクト・投手)
【9位】 赤間謙(鷺宮製作所・投手)
【10位】 杉本裕太郎(JR東日本・外野手)
【育成1位】 塚田貴之(白鴎大・投手)
【育成2位】 赤松幸輔(香川オリーブガイナーズ・捕手)
横浜DeNA
【1位】 今永昇太(駒澤大・投手)
【2位】 熊原健斗(仙台大・投手)
【3位】 柴田竜拓(國学院大・内野手)
【4位】 戸柱恭孝(NTT西日本・捕手)
【5位】 綾部翔(霞ケ浦高・投手)
【6位】 青柳昴樹(大阪桐蔭高・外野手)
【7位】 野川拓斗(鷺宮製作所・投手)
【育成1位】 網谷圭将(千葉英和高・捕手)
【育成2位】 山本武白志(九州国際大付高・内野手)
【育成3位】 田村丈(関西学院大卒・投手)
東北楽天
【1位】 オコエ瑠偉(関東第一高・外野手)※平沢の外れ指名
【2位】 吉持亮汰(大阪商業大・内野手)
【3位】 茂木栄五郎(早稲田大・内野手)
【4位】 堀内謙伍(静岡高・捕手)
【5位】 石橋良太(Honda・投手)
【6位】 足立祐一(パナソニック・捕手)
【7位】 村林一輝(大塚高・内野手)
【育成1位】 出口匠(津田学園高・内野手)
【育成2位】 山田大樹(菰野高・内野手)
(文/杉浦泰介、写真/安部晴奈)