Jリーグの開幕まで、1カ月を切っています。元旦の天皇杯でガンバ大阪が2連覇を達成してシーズンオフに入りました。26日にはU‐23日本代表がリオデジャネイロ五輪アジア最終予選を兼ねた「AFC U‐23選手権」準決勝でイラクに勝利。上位3チームまでが獲得できるオリンピック切符を賭け、熱い戦いを繰り広げた日本は6大会連続となる五輪の切符を掴み取りました。

 

 イラク戦で日本はFW久保裕也のゴールで先制しましたが、43分に右CKから同点に追いつかれてからは苦しい展開が続いていました。日本は粘り強く守って最少失点に抑え、最後にMF原川力が決めてくれた。監督、選手は五輪出場という目標を達成できましたし、とても喜ばしいことです。それに加えて、ドーハでイラクに劇的な勝ち方をしてくれました。僕は、「ドーハの悲劇の時の痛い思い出の仇をとってくれた」と感じました。

 

 今回のチームは取り立てて誰が凄いということではなくて、チームとして守備を整えてシンプルに攻撃に転じている。このコンセプトを各選手が熟知していることが今のチームの大きな特徴だなと思います。一方で、手倉森誠監督も選手個々のことをよく把握しています。「この試合では、この選手の良さをスタメンで活かす」「この試合展開ならこの選手を投入する」と、各選手の起用のタイミングを常に探っています。そうでなければ、毎試合あれほどメンバーは替えられません。1つ勝つと「このメンバーの歯車が狂わないように、先発を固定したい」と思うのが多数の意見だと思います。監督が選手の能力を信頼していることと、スタッフのスカウティング能力が長けている。だからメンバーが替わっても同じコンセプトでサッカーができるのでしょう。

 

 勝利が大きな原動力となり、ピッチで戦っている選手からも「自分たちがやっていることは間違っていないんだ」と自信が感じられます。短期決戦の中で、勝ち星を積み重ねていくと選手間の信頼関係が増してきます。短期決戦は1つ歯車が狂ってしまうとチームの流れや雰囲気が悪い方向に行ってしまう怖さがありますが、1度波に乗ればチームが勢いづく。今回のU‐23日本代表は短期決戦の良さを活かせています。

 

 30日の決勝の相手は韓国です。韓国はロングパスを主体とした戦術で攻めて来ると予想します。キーポイントは2つ。1つ目はDFの植田直通らが韓国の繰り出すロングボールに対して辛抱強く耐えてくれるか。そして2つ目はMF遠藤航を中心とする中盤の選手のセカンドボールへの対応です。セカンドボールを拾えるか、もしくはアウトオブプレーにしてしまって流れを断ち切れるのかが、大切になってくるかなと思います。今のU‐23日本代表のDFの選手たちは意識をお互いに共有できている。綺麗にDFラインを崩される可能性はあまりないでしょう。慌てずにDFラインのバランスさえ保てれば、必ず勝機はあると思っています。

 

 セットプレーの優位性

 

 手倉森ジャパンはセットプレーの決まりごともしっかりしていたなと思います。グループステージでは植田がフリーでCKに合わせて決めたシーンにもあったように、植田に対するマークをうまく周囲の選手が助け合って剥がしているように見受けられますね。あとはキッカーが質のよいボールを蹴ることができれば、貴重な1点をもぎ取れます。

 

 僕が考えるセットプレーの優位性とは、キッカーにプレッシャーを掛けにいくことができない、ボールを取りにいくことができないことだと思います。この状況で正確なキックを放てるキッカーがチームにいれば直接ゴールを狙えますし、誰かに合わせてもよい。選択肢が増えて、敵に的を絞らせることをより困難にさせますよね。

 

 そして優れたキッカーがいるとゲームプランが立てやすくなります。僕が鹿島アントラーズでプレーをしていた1993年頃の話です。ペナルティーエリア周辺でアルシンド、黒崎久志、長谷川祥之らFWが倒される。そこでFKを得ると、例えばですが「前半20分、ペナルティーエリア周辺で直接FKをもらった。キッカーは当然、ジーコ。ジーコがキッカーなら、ここで得点を取れるから前半は1-0になる。残りの25分でもう1回、DFを整えましょう」という具合にDF陣は、試合の流れを計算できるようになります。

 

 今回の大会ではまだトリッキーなセットプレーは出していませんが、そこまで動かなくても相手のマークを外すことができています。セットプレーは世界のサッカーを見ても、得点が生れる大きなきっかけとなっている。トレーニングではセットプレーに割ける時間を大切にして、キッカーと中で合わせる選手の間合いをもっとすり合わせて欲しいです。

 

 日本人選手はあまり遊ばない

 

 今季はJリーグ創設以来初の2月開幕と、例年以上に短いオフを経てスタートします。これは年末の過密日程の緩和のためにスケジュールがいつもより前倒しになったそうです。オフが短いことに関してですが、選手個人からすれば、それほど気にはなりません。特に日本人の性格からすれば問題ないかと僕は思います。

 

 なぜならば、国民性もありますが、日本の選手はオフの間もあまり遊ばないからです(笑)。最初の1週間くらいは体を休めるために動かないかもしれません。しかし、それ以上休むとコンディションが維持できなくなってしまうので自主トレを始めています。

 

 オフの短さは選手個人にはさほど影響はないですが、チーム編成を考える監督やスタッフは慌ただしくなるでしょう。キャンプの期間が短いと、選手の体力向上に費やせる時間や戦術をチームに落とし込む時間、新加入の選手をチームに馴染ませる時間が短くなってしまうからです。今回のようのU-23日本代表選手の中にもGK櫛引政俊、MF三竿健人、原川ら今年から新天地でプレーする選手がいます。代表選手がアジアでの戦いから帰ってきて、うまくチームに溶け込めるのかが懸念されます。かといって、合流が遅い選手に合わせて、チーム全体にコンセプトを落とし込む練習に着手する時期をずらすこともできないでしょう。

 

 今回のオフの短さはチーム編成的には厳しいですが、各選手、監督、スタッフが一丸となり、開幕までに素晴らしいチームに仕上げて欲しいなと期待しています。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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