第309回 2016年ヤンキース、4つの見どころ
アメリカにも球春が到来――。各チームがスプリングトレーニングのキャンプインを迎え、選手たちがアリゾナ、フロリダ州に集まってきている。
過去3年連続でプレーオフでの勝利から見放されているヤンキースも、キャンプ地のタンパで再出発を切る。昨季、ワールドシリーズまで進んだ同市内のメッツと比べ、ニューヨーク内でもやや影が薄くなってしまった感がある“元王者”は、2016年はどんなシーズンを過ごすのか。今回は今季の4つの見どころをピックアップし、名門チームの今後を占っていきたい。
先発投手陣はコンディションを保てるか
今季のチームの中で最も読みづらいのは、先発投手陣がどんな成績を残すかである。ローテーション候補の6人のうち、昨季中に故障者リスト(DL)入りを避けられたのはシーズン中にメジャー昇格したルイス・セベリーノだけ。才能は誰もが認めるが、 健康維持には不安が残る選手ばかりだ。
田中将大は昨季終了後に右肘の骨片除去手術を受け、右上腕と肩への不安が消えないマイケル・ピネダも過去4年連続でDL入り。ネイサン・イオバルディは右肘炎症で昨季最後の3週間は登板できず、 昨年6月にトミー・ジョン手術から戻ったイバン・ノバも復帰後は不調に終わった。元エースのCCサバシアに至っては、右膝を痛めて8月にDL入りした上に、プレーオフ前日にアルコール中毒矯正施設入りしてしまった。
今季のヤンキースは強力ブルペンを擁しているだけに、先発陣への負担は他チームと比べて軽いのは事実ではある。それでもローテ内の投手が昨季のように順番にDL入りしているようでは、上位進出はやはり覚束ない。
中でも去年は合計78先発のみに終わった27歳の田中、26歳のイオバルディ、27歳のピネダが今季にどれだけ力を発揮できるか。彼らが新エース候補のセベリーノをサポートできれば、先発陣はア・リーグのライバルたちに脅威を感じさせるものになるはずだ。
昨季成績 先発数 勝敗 防御率
田中 24 12勝7敗 3.51
セベリーノ 11 5勝3敗 2.89
ピネダ 27 12勝10敗 4.37
イオバルディ 27 14勝3敗 4.20
サバシア 29 6勝10敗 4.73
ノバ 17 6勝11敗 5.07
A・ロッドとテシェイラに力は残っているか
昨季最大の“うれしい誤算”は、アレックス・ロドリゲス、マーク・テシェイラという2人のベテランが合計64本塁打を放ったことだった。彼らに引っ張られ、チームはリーグ2位の764得点をマーク。今季も標準以上の得点力を保つために、両雄のハイレベルの働きが再び必要になってくるに違いない。
ただ、DH専門になって息を吹き返したA・ロッドはすでに40歳。テシェイラも4月で36歳になり、しかも足の骨折明けだけに、昨季同等以上の数字を望むのは酷というのが一般的な見方ではある。
ヤンキースは今オフにトレードでスターリン・カストロ、アーロン・ヒックスといった若手を手に入れたが、彼らは中軸を打つ選手たちではない。成長株のグレッグ・バードも肩のケガで今季絶望になり、故障者発生時の保険も不在になってしまった。そんな状況下で、キャリア終盤に差し掛かった2人のベテランがどれだけ打線を支えられるかに注目が集まる。
昨季成績 試合数 打率 本塁打 打点 出塁率 OPS
ロドリゲス 151 .250 33 86 .356 .842
テシェイラ 111 .255 31 79 .357 .906
チャップマンはすぐに力を発揮するか
2016年版ヤンキースの最大の強みが、超強力なブルペン3本柱(デリン・ベタンセス、アンドリュー・ミラー、アロルディス・チャップマン)であることに異論の余地はあるまい。9イニングあたりの平均奪三振で、昨季メジャートップ3だった剛腕トリオ。迫力たっぷりのこの3人は、近年は魅力不足だったチーム内で新たな呼び物になるはずだ。
中でも新加入のチャップマンは、ご存知の通り、最速105マイルの歴史的な速球王。キューバ出身の左腕がマウンドに立てば、ファンの目はスコアボードに、スピードガンに釘付けになるに違いない。
また、対戦相手にも、“3人が登場する6〜7回までにリードを奪わなければいけない”という強烈なプレッシャーを与え続けることになる。今季のヤンキースには穴は多いが、それでもプレーオフ進出のチャンスは十分にあると考えられているのは、端的に言ってこのトリオの存在ゆえである。
ただ……心配事があるとすれば、昨年10月に起こした恋人への家庭内暴力事件ゆえ、チャップマンに出場停止処分が課される可能性があること。
何試合を抜けることになるのか。予想されている通り15試合程度だったとして、処分はパフォーマンスにどう影響するか。復帰後も敵地では罵声にさらされることは必至だけに、精神的な動揺も気にかかるところだ。
昨季成績 登板数 セーブ 防御率 K/9(9イニングあたりの奪三振率)
ベタンセス 74 9 1.50 14.04
ミラー 60 36 2.04 14.59
チャップマン 65 33 1.63 15.74
“テーブルセッター”たちは仕事を果たせるか
前述した中軸の強打者たちのパワーを活かすべく、1、2番打者の貢献が重要であることも言うまでもない。
昨季のジャコビー・エルスベリーは序盤戦はオールスターレベルの成績ながら、5月下旬に膝を痛め、球宴以降は打率.220と不振。7年1億5300万ドルという巨額契約を受け取りながら、ワイルドカード戦でスタメン落ちという屈辱を味わった。
一方、ブレット・ガードナーは初のオールスター出場を果たすも、手首を痛めてこちらも後半戦は打率.206と絶不調。2人のスピードスターの故障、失速が、昨季球宴以降の極端な得点力不足につながったことは明白だろう。
エルスベリー、ガードナーはまだ32歳。あと数年は働けるだけの力は残しているはずだ。“テーブルセッター”たちが出塁、走塁という任務を遂行できるかどうかで、昨季同様、ヤンキースの攻撃力は大きく変わってくるはずである。
昨季成績 試合数 打率 本塁打 盗塁数 出塁率 OPS
ガードナー 151 .259 16 20 .343 .742
エルスベリー 111 .257 7 21 .318 .663
杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。
※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY