3月下旬、日本代表はロシアW杯アジア2次予選のアフガニスタン戦、シリア戦がありました。日本はどちらの試合も5-0で勝ち、見事、グループリーグ首位で最終予選へと進みました。最終予選は厳しい戦いの連続ですが、なんとかW杯出場を決めてほしいものです。

 

 流動性にパワープレーも加わったハリルJ

 

 24日のアフガニスタン戦では、4-4-2のフォーメーションで中盤がダイヤモンドの形を試しましたね。練習時間が少なかったため、うまく機能していなかったなと感じました。新システムのせいか、どのタイミングで攻撃を仕掛けるのか統一されていなかった。具体的に言及すれば、サイドの使い方です。ダイヤモンド型の中盤だとサイドハーフが、サイドバックのオーバーラップするスペースを消してしまう。ボランチが1人のため、攻撃の枚数は多いのでボールを回すことはできるけれども、スペースが少なく、縦にいる人にパスを入れにくくなっていました。このシステムの構築には少し時間がかかるなというのが素直な感想です。

 

 この試合では1年5カ月ぶりに代表に復帰したFWハーフナー・マイクが出場しました。長身の彼が入ることでチーム全体の意思統一ができました。選手交代で「パワープレーに特化するんだ」と明確な共通意識が出てきて良かったですね。これで攻撃のバリエーションも増えると思います。アルベルト・ザッケローニ監督時代にハーフナーが投入されても、あまり戦い方を変えずに「何のためにハーフナーを入れたんだろうか……」と思うこともありました。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はうまくパワープレーをチームに浸透させつつあるのかもしれません。ハーフナーの高さを活かしたパワープレーから得点も生まれましたし、さらにブラッシュアップしてほしいです。

 

 29日のシリア戦はシステムをいつもの4-3-3に戻して臨みました。ワンタッチプレーを多く使ったり、ワンツーで相手の裏を取ったり、3人目の動きも絡めてサイドをえぐっていた。あのようにイメージを共有しながら少ないタッチ数でパス回しができていると、見ている僕たちはワクワクして面白いですよね。

 

 しかし、シリア戦はカウンターからのピンチが多かったのも事実です。これに関してはDFラインのリスクマネジメント能力だと思います。ここの部分の精度を上げていかなければいけません。カウンター自体をゼロに抑えるのは無理ですから、カウンターを食らうことを想定してどのような守備体形を敷くのか。これが一番大切です。僕だったら、自分が1人余って、センターフォワードに1人マンマークをつける。僕がマンマークをしていたら誰かにサポートに回ってもらう。これでもかというほど、基本的な連係を徹底的に確認しますね。

 

 日本代表で僕は、FW金崎夢生にすごく期待しています。以前は中盤の選手でしたが、最近は鹿島でも代表でもFWで起用されています。FWとしての彼の成長が非常に楽しみです。この2試合はもっと自由にやれたんじゃないかなぁとも少し思います。金崎の力はこんなものじゃないですよ(笑)。彼が日本を背負って立ってくれないと困る。今の金崎はそれくらい魅力的なプレーヤーだと感じています。

 

 鹿島・植田の成長

 

 金崎が攻撃を牽引している鹿島アントラーズはリーグ戦3位(4節終了時点)と良い位置につけています。就任2年目の石井忠正監督も自信を持って采配を振るっている。昨年は監督1年目、それもシーズンの途中からだったので無我夢中でやっていたと思います。今年は去年築いたベースにプラスアルファが出せている。石井監督自身、現役時代ボランチを務めていたこともあって、ボランチ、もしくはDFラインからの攻撃の組み立てを成熟させたいと思っているみたいです。

 

 その鹿島のDFラインでは植田直通が順調に伸びています。リオデジャネイロ五輪の最終予選を経験したことでプレーに落ち着きや余裕が感じられます。ボールを奪う前と奪った後のポジショニング、相手のプレーを先読みしてうまく駆け引きできています。自分の読みがハマると「自分はできている」という充実感を得られる。それが大きな自信につながっているように見えますね。あと、去年と比較してボールを持った時に縦パスを自分が入れるのか、サイドチェンジをした方が良いのかといった判断が早くなっている気がします。余裕があってきちんと周りが見えているから慌てずに、正確なパスが出せている。元々、身体的な能力は申し分ないので、今後がますます楽しみです。

 

 一方で、ヤマザキナビスコカップではAグループで鹿島は2試合を消化して2敗の最下位です。まだ決勝トーナメント進出の望みはありますが、4月6日に行なわれる3節で敗れると連覇の道は厳しくなってきます。リーグ戦では好成績を残しているだけにナビスコカップの結果が良くないので、地元でも「何やってんの?」という話になってしまっています。

 

 鹿島サポーターの方々はシーズンで必ず1つはタイトルを獲ってほしいと願っています。我々OBもそう望んでいます。去年のナビスコ覇者が早々に姿を消すのは寂しいので、是非巻き返してほしいです。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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