(2) 昨年12月に行われた天皇杯で、中央大学男子バレーボール部は快挙を成し遂げた。全日本代表メンバーが多く集まるV・プレミアリーグのサントリーサンバースを3対1で下した。番狂わせの一翼を担ったのが、ウィングスパイカーの武智洸史である。彼はエース・石川祐希の対角プレーヤーとしてフル出場を果たし、大金星を呼び込んだ。


 関東大学バレーボールリーグに所属する中大は、この2年間で春季リーグ、秋季リーグ、全日本大学選手権(全日本インカレ)で数々のタイトルを得てきた。昨年は東日本大学選手権を除く主要3タイトルを制覇した。ここ2年間、大学バレーボール界ではほぼ無双状態が続いている。


 それもそのはず昨季までの中大のスタメンには、全日本代表エースの石川をはじめ、元全日本代表選手の父を持つ大竹壱青、今季のV・プレミアリーグ準優勝のパナソニックパンサーズに入団した関田誠大と今村貴彦らが名を連ねていた。1年時から主力としてプレーする武智も“最強メンバー”のうちの1人だった。


 2014年の春、武智は愛知の星城高校から石川とともに中大に入学した。コートで対角を張る石川とは、高校時代からの盟友だ。星城高時代は史上初の「2年連続高校3冠」を成し遂げたことから2人のバレー部入りは、注目度が高かった。学内新聞の中大スポーツで1面を飾るほどだった。


 武智は中大入学当時から松永理生監督に言われ続けている言葉がある。

「お前がチームの“心臓”になれ」


 主力としての自覚を促す監督からの激励に、武智自身も乗り気である。

「自分が­調子いいというか­安定していればチームも安定して、­自分が崩れたらチームも崩れていくことが­­度々あったんです。それで­自分が崩れないように常に­安定して­プレーすることを目指しました。そうすることで、チームの心臓になれたら­いいなと思いながらずっとやっています」

 

V・リーグの強豪から奪った1勝

(4)「企業チームに勝つこと」。昨季の中大は目標の一つに掲げていた。武智は「1年目が終わったあとは、次の­天皇杯のことばかり考えていた。やっぱり関田さんという­凄いセッターが­いますし、石川もいた。­中央大学­はメンバーが揃っていたので、これを逃したら絶対にもったいないな­と­思っていました」と語る。大学生が社会人チームに勝つことはそう簡単ではない。だが、戦力が充実していた昨季が企業を倒す最大のチャンスだと目論んでいた。


 天皇杯の組み合わせで、中大は1回戦を突破すればサントリーと対戦できることが決まった。サントリーといえばV・プレミアリーグや天皇杯の優勝経験がある強豪だ。2回戦で当たる可能性を知った武智は“嬉しかった”という。


「自分が小学校や中学校の時にテレビで見ていた選手とかもいるので、その人たちと公式戦でやれるというのは不思議な気持ちもあるんですが、すごく嬉しかった。自分たちがどれだけ通用するのかなと」。武智は臆することはなく、むしろ強気だった。中大は1回戦の兵庫デルフィーノを破り、2回戦にコマを進めた。


 迎えたサントリー戦。チームで徹底したことは“いつも通り­楽しめ”と“チャレンジャー精神­を持って思いきり­ぶつかる”の2つだった­。しかし、1セット目は21-25でサントリーに先取される。武智は「まぁこんなものか……みたいな感じに­思った」と明かした。“当たって砕けろ”精神で立ち向かったが、サントリーはそう簡単には勝たせてくれない。


 しかし、形勢逆転の兆しが見えたのは2セット目の終盤のことだった。20点以降に石川と大竹のサービスエースで流れを中大に引き寄せた。“これはいけるかもしれない”。そう直感した武智はネット下のボールへ必死に食らいついた。攻撃の糸口をつくるために、細かいプレーに徹したのだ。デュースの末に29-27で2セット目を奪うと、続く3セット目も25-23で連取した。


(1) チームが勢いづく中、4セット目にポイントゲッターの2人にアクシデントが生じた。石川が足を攣ったことは報道されていたが、実はこの時、今村も足を攣っていたのだ。武智の目には、司令塔である主将・関田の焦りが映ったという。エースが動けない時は、誰かがカバーしなければならない。今までは石川や今村に攻撃面は任せていたが、4セット目からは武智も積極的に攻撃に参加した。


「関田さんもちょっと焦っていたので、­そこで自分もちょっとギアをあげて、打数が増えました」と武智。レシーブ・トス・スパイクの3役を全うするためにコート内を縦横無尽に駆け回った。先に中大がマッチポイントを取ったものの、柳田将洋の痛烈なサーブで逆に王手をかけられる。しかしここは武智が力強いアタックを決めて何とか凌いだ。両軍一歩も譲らぬ展開で、点の取り合いが続いた。


 デュースの末、相手のアタックがアウトになり29-27でゲームセット。チームメイトが抱き合って喜ぶ中、武智は嬉しさのあまりコート内でひとり倒れ込み喜びを噛み締めた。武智は「今までで一番うれしかったです」と振り返る。攻守に渡り大活躍した彼がいたから4セット目を取れたといっても過言ではない。まさに“心臓”としてチームを支えた。


 そんな武智がバレーにハマったのは2歳年上の姉の影響だ。彼の幼少期を母・千代は「バレーボールを好きというか、好きを超えていました(笑)。体の一部、生活の一部みたいになっていましたよ」と話す。それほどまでに武智がバレーにのめり込んだきっかけとは――。


第2回につづく)


プロフィール写真<武智洸史(たけち・こうし)プロフィール>

1996年1月1日、愛媛県松山市出身。小学2年にバレーボールを始め、雄新中学時代は全国大会に出場。星城高校では、2年からスタメンを獲得。全国高等学校総合体育大会、国民体育大会、全日本高等学校選手権大会の主要3大会を史上初の2年連続で制覇した。中央大学では、1年からスタメンで活躍。14年全日本インカレでは18年ぶりの優勝に貢献し、レシーブ賞を獲得。昨年5月にU23日本代表にリベロとして選出され、第1回アジアU23男子選手権大会に出場した。身長186センチ、体重78キロ。最高到達点330センチ。ポジションはリベロ、ウィングスパイカー。

 

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(文・写真/安部晴奈)

 


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