2016年の明治安田生命J1リーグのファーストステージは鹿島アントラーズが制しました。最終節直前で首位に立ち、最終節でもアビスパ福岡を相手にきっちり勝利を収めて優勝を決めました。2009年以来のリーグ制覇に向けたチャンピオンシップへの出場権獲得です。地元の人たちも賑わっていて、僕も非常にうれしいです。ファーストステージでは“ここぞ”という場面で結果を出した素晴らしいチームでした。黄金期到来の予感すらします。その鹿島がファーストステージを獲れた要因に触れていきましょう。

 

切磋琢磨がもたらした鉄壁の守備

 

 今季のファーストステージの鹿島は非常に競争が激しいチームで、特にMF永木亮太の加入は大きいです。先発での出場はさほど多くはありませんが、彼のように中盤でしっかりと、“汗をかける”選手の途中投入はDF陣としては助かります。なぜなら、全体的に運動量が落ちてきて、チームとしてプレスがかけられなくなると、どうしても相手にスペースと時間を与えて、失点のリスクが増えます。そこを永木が労を惜しまない働きで中盤にできたスペースを埋めてくれていましたね。

 

 また、永木の加入でスタメンのMF柴崎岳、MF小笠原満男も大きな刺激を受けて高いレベルのパフォーマンスを見せてくれました。永木も日本代表の候補合宿に招集されるほどの実力者ですから、スタメンの2人も、うかうかはできないはずです。永木の加入で、チームの幅が広がりました。スタメンで使ってよし、途中からダブルボランチのどちらかと替えてもよし、永木をボランチに入れて柴崎を2列目にあげてもいい。苦しい展開の中、逃げ切りたい時は永木、小笠原、柴崎のスリーボランチにする選択肢もあります。昔の本田泰人、もしくは前にも書きましたが石井忠正監督の現役時代に永木のプレーは似ています。運動量があって、球際の強いボランチがいるとチームが安定します。

 

 出場機会は少なかったですが、U-23日本代表のGK櫛引政敏の加入も、鹿島の守護神・曽ヶ端準に危機感をもたらしました。正GKを競う相手ができた影響もあり、今季の曽ヶ端は高いレベルのパフォーマンスを披露しています。センターバックの若い2人、植田直通と昌子源も頑張りました。植田はリオデジャネイロ五輪最終予選で自信を掴みましたが、一方の昌子にはDFリーダーとしての自覚が芽生えて、プレーも見違えるほど良くなりました。植田に前で潰させて、昌子が声をかけながらフォローに回る。この形がうまくハマりました。17試合で10失点しかしてないことに自信をもって、彼らには今後も伸びて欲しいものです。

 

貴重な元FWのヤナギの存在

 

 FWもポジション争いが熾烈です。金崎夢生、土居聖真、赤崎秀平、鈴木優磨に加えて、MFカイオもツートップの一角でプレーが可能です。金崎はFWの軸として8得点と活躍しました。ファーストステージの序盤は相棒役を赤崎が務めていましたが、ケガから復調してきた土居が結果を残し、先発の座を奪い取りました。“常勝”と言われていた時の鹿島にも、FWには黒崎久志、長谷川祥之、アルシンドがいて、スーパーサブには眞中靖男がいました。その頃の鹿島に、今の鹿島が近付きつつあることが良い方向に作用したんだと思います。

 

 昨季から首脳陣に変化がありました。石井コーチの監督昇格、そして現役を退いたばかりの柳沢敦のコーチ就任です。FW出身の鹿島のコーチといえば、以前は関塚隆さんが在籍していましたが、代表クラスのFWとなると柳沢が初めてではないでしょうか。基本的に現役時代にDFやMFだった人が監督、コーチを務めることが多い鹿島において、柳沢コーチは貴重な存在だと思います。戦術を練る際、選手にアドバイスをする際には必ずと言っていいほど、FWを経験した人のアドバイスも必要になってきます。まして、代表クラスの人物です。“ヤナギ出し”と形容されるほど、卓越した動き出しの能力の持ち主である柳沢のアドバイスはFW陣にとっては絶対に貴重なはずです。柳沢にはどんどん、若手に動き出しの極意を落とし込んでほしいですね。

 

 いいチームはFW、ボランチ、センターバック、GKと縦の軸がとてもしっかりしています。上記にあげたように現在の鹿島のセンターラインは質の高い選手たちが練習からピリッとした雰囲気の中で凌ぎを削り合っています。この縦の軸の選手たちを中心に「勝ち方をわかってきたな」と感じます。優勝を決めた福岡戦の先制点もそうですが、勝負所でのセットプレーで得点をもぎ取れる。そして試合の入り方が勝利を引き寄せるうえにおいてとても大事です。いい時の鹿島の入りは、守備時にはコンパクトな陣形で選手間の距離が離れ過ぎていない。ボールを奪取すると、攻撃陣は一気に広がって、相手の守備網を広げます。この一連の“収縮、拡大”の動きがチームとしてオートマチックにできていました。仮に福岡戦のようにうまく試合に入れなかった時も、キャプテンの小笠原を中心に慌てることなく対処できる。勝ち方を覚えた選手たちの表情は自信に満ち溢れていて、頼もしさを感じました。7月2日にスタートするセカンドステージにも、慢心することなく臨んでくれることでしょう。

 

 最後に15年半に渡って、鹿島一筋だったDF青木剛のサガン鳥栖への移籍が決定しました。15年半という長い間に、青木が残してくれた功績は計り知れません。功労者と言っても過言ではないはずです。彼が選んだ移籍という男の決断を、僕も応援したいと思います。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


◎バックナンバーはこちらから