吉田、4連覇ならず 初出場・川井は金メダル ~レスリング~

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 18日(日本時間19日)、レスリングの女子フリースタイル53キロ級決勝で吉田沙保里がヘレン・マルーリス(アメリカ)に敗れ、4連覇はならなかった。63キロ級は川井梨紗子(至学館大)がマリア・ママシュク(ベラルーシ)を下して、金メダルを獲得した。75キロ級の渡利璃穏(アイシンAW)は初戦敗退に終わった。

 

 絶対女王が陥ったまさかの落とし穴

 

 “伝家の宝刀”高速タックルは6分間、最後まで決まることはなかった。試合終了のブザーが鳴ると、吉田はマットに突っ伏したままだった。

 

 絶対女王、4連覇、日本選手団の主将……。計り知れないプレッシャーを背負って、吉田は4度目となる五輪のマットへと上がった。初戦はナタリア・シニシン(アゼルバイジャン)に4-0で判定勝ちを収め、まずまずのスタートを切った。

 

 続く準々決勝はイザベル・サンブ(セネガル)を圧倒。9-0で判定勝ちすると準決勝はベツァベス・アルゲリョ(ベネズエラ)に6-0で勝利した。スピード、テクニックで他の追随を許さず、1ポイントも失わずして決勝へとコマを進めた。

 

 決勝戦の相手は大方の予想とは違ったものになった。“打倒吉田”の筆頭候補に挙げられていたのはソフィア・マットソン(スウェーデン)だ。だが13年の世界選手権から3年連続で吉田に次ぐ準優勝だったヨーロッパ女王は、準決勝でヘレン・マルーリス(アメリカ)にフォール負けを喫していた。

 

 マルーリスは昨年の世界選手権は非五輪階級の55キロ級で優勝しており、同級の世界ランキング1位だった。だが4年前の世界選手権では55キロ級決勝で吉田がマルーリスを退けている。マットソンほどの脅威になるとは思われてはいなかった。

 

 決勝は1分30秒に吉田がマルーリスの右足を取って、テイクダウンを奪おうとするが、ここは相手に粘られた。2分には消極的な姿勢のマルーリスにアクティビティタイム(30秒間にポイントが入らなければ、相手に1点)が宣告された。膠着状態はアクティビティタイムでも続き、吉田が1点を先制した。第1ピリオドは残り時間も牽制し合ったまま終了。1-0のリードで試合を折り返す。

 

 第2ピリオドでもマルーリスは額をつけて密着し、吉田の手を取ってタックルを封じ続けた。なかなかスキの見えないことに焦りもあったのか、吉田は少々強引に首投げにいこうとして、マルーリスにバックを取られた。その後の追加点は凌いだものの、1-2と逆転を許した。

 

 今大会初めてポイント許した吉田。反撃を試みるも、相手を仕留めることはできない。逆に組み手争いから、そのまま場外に押し込まれて1-4とリードを広げられてしまう。残り1分を切って3点のビハインド。4連覇へと黄信号が灯った。

 

 吉田はその後もタックルで右足を掴むが、ポイントは奪えず逃げ切られた。五輪での初黒星。2001年から続いていた個人戦での公式戦連勝記録も途絶えた。「たくさんの方に応援していただいたのに銀メダルで申し訳ないです」と大粒の涙を流した。

 

「最後は勝てると思っていたんですが、取り返しのつかないことに……」

 言葉を詰まらせながら吉田は語った。幾つもの金字塔を打ち立ててきた絶対女王に大きな落とし穴が待っていた。父に教わり、磨いてきた高速タックルは不発に終わり、逆転勝ちはならなかった。

 

 表彰式中も涙が止まらなかった吉田。試合後は自らを責める言葉ばかりが出てきたが、この敗戦は彼女の功績を無しにするものではない。表彰式で吉田の名前がコールされると、会場からは大歓声が送られた。4連覇を逃したとしても世界中からリスペクトされている存在であることを証明した。

 

 攻撃的レスリングで圧倒

 

 初出場の川井はアグレッシブに金メダルを獲りに行った。攻めの姿勢を貫いた21歳の新女王は「これが自分の教わったレスリングです」と胸を張った。

 

 リオ五輪のため63キロ級に階級を上げて臨んだ川井。昨年の世界選手権では銀メダルを獲得していた。世界ランキング3位につけ、メダル候補となった。今大会では2回戦を5-0、準々決勝を8-2と危なげなく勝ち上がった。

 

 一方で昨年の世界選手権女王で世界ランキング1位のバトツェツェグ・ソロンゾンボルド(モンゴル)が準決勝で、一昨年の世界選手権を制した世界ランキング2位のユリア・トカチオスタプチュク(ウクライナ)が2回戦敗れる波乱があった。

 

 準決勝はイナ・トラジュコワ(ロシア)と対戦し、1分過ぎにタックルで2ポイントを先取した。その後もアグレッシブに攻めて、両足タックルを決めて4ポイント獲得。そのままローリングも加えて、8-0とリードした。最後はタックルからバックを取って、2ポイントを追加する。試合時間2分10秒、10-0のテクニカルフォール(10点差になった時点で終了)勝ちで決勝へと進んだ。

 

 低く速いタックルで他を圧倒していた川井は、決勝でも臆することなく攻め続けた。開始早々に足を取って、バックを取った。第1ピリオド終盤には反撃を試みるママシュクのタックルを切って、2点のリードで第2ピリオドを迎えた。第2ピリオドも攻撃を仕掛けつつも、相手の反撃に対しても冷静に対処した。4分過ぎに片足タックルからバックを取って、2点を加えた。

 

 逆転を狙うママシュクに対し、終了間際にはカウンターでバックを取った。6-0――。残された時間は数秒で、相手は反撃を諦めた。試合終了のブザーが鳴ると、栄和人監督を飛行機投げでマットに叩き付け、肩車して勝利を喜んだ。「昨年の世界選手権では決勝で舞い上がった。その雪辱は大きい舞台でないと果たせないと思ったので、絶対勝とうという気持ちだった」と川井。階級を上げてまで臨んだ初の五輪で頂点に立った。東京五輪への質問を受けると「もちろん。絶対に立ちます」と連覇を誓った。

 

 女子レスリングはこれで全日程を終えた。吉田の敗戦というショッキングな出来事はあったが、全6階級中5階級でメダルを獲得した。金メダルは過去最多の4個。正式種目に採用されたアテネ五輪から複数の金メダルを獲得している女子レスリングはリオでも期待通りの結果を残した。

 

(文/杉浦泰介)

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