151124topics二宮: 以前は厚生労働省と文部科学省で、オリンピックとパラリンピックで管轄が分かれていたのが、新たにこの10月からスポーツ庁ができました。いわゆるパラスポーツの中のエリートスポーツの一部が文科省の方に移行された。ただし、まだ厚労省が管轄しているものもある。やはり全部を移行するのには時間がかかるんでしょうか?
遠藤: これはいろいろ議論をしたんですが、パラリンピックというのはまさにアスリートの世界なのかなと。ただパラスポーツ全体を考えた時に、医療行為を伴うというか、補助を受ける人もいるわけです。そこまで全部スポーツ庁の管轄でいいのか、厚労省管轄のままでいた方がいいのかという選択を迫られる。これはケースによって、どちらとも言い切れない部分があるんです。そこはあまりギリギリ詰めないで、お互いに連携だけはしっかりしようと。スポーツ庁のパラスポーツの責任者には厚労省の人間が来ているんです。今度はスポーツ庁から、逆に厚労省の担当に行くなど人の交流を通じてね、連携を図っていこうと思っています。

 

二宮: 必ずしも一元化することがいいとは思わないと?

遠藤: あまりきちんと線引きしない方が私は良いと思っているんです。その方がかえって、穏やかに全体を調整しやすいかなと。

 

二宮: なるほど。パラリンピック開催のための環境を整えられれば、ひいては超高齢社会に役立つと言われています。ソフト面、ハード面でバリアフリー化することで2020年以降にもレガシーとして残すこともできますよね。

遠藤: オリンピック・パラリンピックを成功させるということが、もちろんベースにはありますが、これをきっかけに共生社会の大きな出発点にするんだと考えています。それが目的であり、あくまで2020年大会は手段であり、通過点だと、私は思っているんです。

 

二宮: ゴールはもっと先にあると。

遠藤: ええ。そういう意味でも価値のある大会にしないといけないと思っていますね。

 

 本当の"おもてなし"

 

伊藤: 今は企業の方々がパラスポーツの会場に足を運んだり、パラリンピアンの雇用を増やしてきています。企業の方々は、自分たちの企業をどうやって未来まで存続させていくかと長期計画を立てる訓練をしています。だから、オリンピック・パラリンピックを一時のイベントやお祭りと考えず、これをその先の未来につなげていこうと考えていると思うんです。各企業の方を積極的に参加させることも大切なのではないでしょうか。

遠藤: そうですね。企業の社会的責任などありますが、障がいのある方たちを全体の何パーセント雇用しないといけないという基準がありますよね。それを本当は越えないとダメだと思っているんです。希望すれば、組織の中で一緒に働ける。特別扱いするのではなく、それぞれの能力を多様に生かして、会社の力を上げていけるか。そういう発想を持っていただくことが大事なのかなと思います。

 

二宮: まさにダイバーシティ(多様性)を認める社会にしていきたいわけですね。

遠藤: ええ。それと先日、ロンドン市長が日本に来た時に私は「2020年大会は、オリンピック・パラリンピックが一体となったロンドン大会を越えます」と言ったんです。するとロンドン市長は「日本の方がはるかにバリアフリーは進んでいるんです」と答えたので驚きました。実はロンドンは150年前にできていた地下鉄もあって、階段が急だったり、狭かったりするんです。それにエレベーターやエスカレーターもあまりないと聞きました。

 

二宮: パラリンピックでも成功したと言われるロンドンでも、完璧ではなかった。

遠藤: ただ、それだけに障がいのある人を見かけると、強制されなくてもスッと助けたりする。「ボランティア」をするという感覚ではなく、普通の人たちが自然に行えるそうです。その話を聞いて、心のバリアフリーが大事なんだなと思いましたね。

 

二宮: それが本当の"おもてなし"。ホスピタリティの第一歩ですね。

遠藤: 学校や企業でこのような教育をすることは、もちろん必要です。しかし、教育されたからではなく、普通にできるようになって初めて共生社会と呼べるのかなと。そのきっかけをつくる意味でも、今度のオリンピック・パラリンピックが果たす役割は大きいと思いますね。

 

(おわり)

 

1511ch遠藤利明(えんどう・としあき)プロフィール>
1950年1月17日、山形県生まれ。中央大学法学部に入学後、ラグビーを始める。ポジションはスクラムの最前線を担うプロップを務めた。大学卒業後、山形県議会議員を経て、93年に衆議院議員に当選。以降、文部科学副大臣、農林水産委員会委員長、自民党幹事長代理を経験し、現在、東京オリンピック・パラリンピック大臣としてスポーツ環境整備などに尽力している。


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