伊藤: 自国開催となると、やはり結果が求められます。実は夏季パラリンピックにおける日本のメダル獲得数は、北京以降、減少傾向にあります。特にロンドンでは北京の金メダル12個から4個と激減しました。今後は強化施設をはじめ、国からのバックアップが重要になると思いますが、いかがでしょうか。

: はい、必然だと思っています。というのも、私は2020年は「東京オリンピック・パラリンピック」というよりも、「日本オリンピック・パラリンピック」にしたいと考えているんです。そうすることが、政府の役割でもあると思いますし、そのためには国がしっかりとバックアップ体制を築かなければいけません。1964年は国の支援も国民の注目もオリンピックに集中しました。しかし、2020年は違います。実際、パラリンピックへの関心はどんどん高まって来ています。オリンピックもパラリンピックも、同じ4年に1度の世界最高峰の大会として扱われるべきです。

 

二宮: その意味ではオリンピック同様に、今後はパラリンピックへの強化策も本格化していくと思いますが、そのひとつがナショナルトレーニングセンター(NTC)の設置です。当初は、国立障害者リハビリセンター(埼玉県所沢市)にパラリンピック専用のNTCを設置しようという動きがありましたが、政府は今年4月、既存のNTCをオリンピックとパラリンピックで一元化するという方針を打ち出しました。私は一元化に賛成なんです。というのも、その方がオリンピック、パラリンピックの垣根がなくなり、より理解が深まると思うからです。そしてまた、一般社会においても心のバリアフリーを促す契機となるはずです。

 

: おっしゃる通りだと思いますね。20年前、私は横浜市会議員を務めていたのですが、当時から少しずつ「バリアフリー」という言葉が市民の皆さんに広がり始めていることを感じていました。現在では、言葉そのものは常識化しつつありますが、実際にはまだまだです。そういう意味でも、オリンピックとパラリンピックが一緒になって強化していく姿を国民に示すというのは、とても大事なことです。そして、そうした姿を世界に発信することで、世界全体がユニバーサル社会の実現へと進んでいくと。伊藤さんが代表理事を務めるSTANDさんは、そういう取り組みに一生懸命ですよね。

 

 障がい者スポーツ振興のチャンスに

 

伊藤: ありがとうございます。ユニバーサル社会の実現においては、障がい者スポーツのさらなる普及拡大も重要です。その点で、パラリンピックが果たす役割は小さくありません。パラリンピックは、障がい者スポーツの頂点であり、世界のトップアスリートたちが最高のパフォーマンスを披露する場です。しかし、その一方で、競技としての意味合いだけでなく、障がいのある人にスポーツを行き渡らせる、障がい者スポーツ振興という面においても、非常に重要な機会になると考えています。

: パラリンピックに出場するトップアスリートたちにも、それぞれ抱えているバックグラウンドがあります。つまり、人生のストーリーですよね。そのストーリーを世界に発信することによって、スポーツを通して障がい者に夢や希望を与える。これもまた、パラリンピックの大事な役割のひとつだと思います。

 

伊藤: オリンピックもパラリンピックも、その場限りのお祭りで終わらせるのではなく、日本でももっとスポーツが日常的に行なわれるきっかけとなるようにしたいですね。

二宮: それこそが、「スポーツ立国」への大きな一歩となるでしょうね。


(第3回につづく)


菅義偉(すが・よしひで)プロフィール>
1948年12月、秋田県生まれ、法政大学法学部卒業後、代議士秘書、横浜市議を経て、96年に衆議院選挙で初当選。総務大臣、自民党選挙対策副委員長などを歴任し、2012年12月より内閣官房長官に就任。


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