二宮: 2020年東京オリンピック・パラリンピックまで、あと6年。環境整備など、課題はたくさんありますが、強化策の柱ともいえるナショナルトレーニングセンター(NTC)については、既存の施設をオリンピック選手とパラリンピック選手が共用する方向で検討されています。当初は、パラリンピック選手強化のための施設を埼玉県所沢市にある国立障害者リハビリセンター内に設立しようという動きもありましたが、私は基本的には一元化した方がいいと思っています。オリンピック選手とパラリンピック選手が交流し合って、お互いに理解を深めることができれば、健常者と障がい者の垣根を取り払ういいモデルケースにもなるはずです。


花岡: 英国もオリンピックチーム、パラリンピックチームというふうに分かれていなくて、英国ナショナルチームというふうにひとつにくくられているんです。そういうかたちが理想ですよね。ただ、NTCについて言えば、現状の施設に僕らパラリンピック選手が行っても、できることというのは限られていると思うんです。もちろん施設も器材も素晴らしい。でも、どうすれば車椅子で速く走れるかという基礎知識の部分がまだ確立されていないので、充実した器材を使ってどうトレーニングするかというところにまで至っていないというのが現状ではないかと。

 

伊藤: 基礎の部分がなければ、いい器材だけがあっても、有効活用できないですね。

花岡: はい。あくまでも僕個人の考えではありますが、車椅子で速く走るための基礎知識を持っている指導者がいて、初めて施設や器材が機能すると思うんです。義足選手の場合はある程度、オリンピック選手と同じトレーニングを応用することができると思いますが、車椅子という特殊な道具を使う競技においては、まずは基礎知識をもった指導者の存在が必要になります。

 

 "異業種交流会"でレベルアップへ

 

二宮: 確かにそうですよね。ただ、基礎知識を持った指導者の育成には時間が必要です。すぐに解決できる問題ではありません。

花岡: そうなんですよね。そうなると、やっぱり二宮さんがおっしゃったように、まずはオリンピック選手とパラリンピック選手が一緒になってトレーニングするというかたちをつくることから始めるのがいいのかもしれませんね。

 

二宮: そこから生まれてくるものもあるのでは?

花岡: それは確かにありますね。車いすテニスの世界チャンピオン、国枝慎吾くんは既にNTCでトレーニングをしていて、オリンピック選手との関わりも広がっているんです。この間、国枝くんを介して北京オリンピック5000メートル、1万メートル代表の竹澤健介くんと知り合ったのですが、3人で話をしていて思ったのは、「やっぱり選手同士はひとつになれるんだな」ということ。結局3人で何を話したかというと、フィジカルの話なんですよ。競技も身体の使い方も違うのに、「こうした方がいいよね」「あ、わかるわかる」と話が通じ合う。面白いな、と思いましたね。こんなふうにして、他の選手たちがどういう工夫を凝らしているのかをディスカッションすれば、いろいろな発見があるんじゃないかなと思いますし、レベルアップにもつながると感じました。

 

二宮: 一般企業で言えば、異業種交流会ですね。知見を持ち寄ることによって、ブラッシュアップされていくと。お互いにとって、メリットがあるでしょうね。

伊藤: 企業もそうですが、違う者同士だからこそ化学反応が起こり、それまでになかった発想が生まれますよね。

 

花岡: 僕らはもちろん、オリンピック選手がパラリンピック選手から受ける影響もたくさんあると思うんです。お互いに刺激し合うことで、いろいろな閃きがあったり、新しい取り組みが生まれたりするはずです。そして、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて選手が一丸となって頑張っていく姿を見せていきたいですね。

 

(おわり)

 

花岡伸和(はなおか・のぶかず)プロフィール>
1976年3月13日、大阪府生まれ。プーマ ジャパン所属。1993年、高校3年時にバイク事故で脊髄を損傷し、車椅子生活となる。1994年から車椅子陸上を始め、2002年には1500メートルとマラソンの当時日本記録を樹立した。2004年アテネパラリンピックに出場し、マラソンで日本人最高位の6位入賞。2012年ロンドンパラリンピックでは同5位入賞を果たした。同大会を最後に陸上選手としては引退。現在はハンドサイクルに転向し、2016年リオパラリンピックを目指している。現在は国内外のパラサイクリング大会に出場する傍ら、日本身体障害者陸上競技連盟強化委員会車椅子グループ部長を務める。


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