若者の就職難が問題視されている中、独自の試みで就労困難者の採用をサポートしている企業がある。IT関連会社のアイエスエフネットグループ(東京都港区)だ。サポートの一環として同社では2010年にNPO法人FDA(Future Dream Achievement)を設立。知的障がい者や発達がい害、うつ病、引きこもり......といった社会的立場の弱い未就労者を社会復帰させるためのイベント「NIPPON IT チャリティ駅伝」を支援している。また、今後はパラリンピアンをはじめ、アスリートのセカンドキャリアにも尽力したいとしている。そこで今回は、同社のグループの代表・渡邉幸義氏を二宮清純がインタビュー。これまでのさまざまな取り組み、そして今後のプランなどを訊いた。

 

二宮: 渡邉社長の著書である『美点凝視の経営――障がい者雇用の明日を拓く』を拝読しました。貴社では知的障がい者、引きこもり、うつ病、ニート......いわゆる「就労困難者」をたくさん採用されていますね。きっかけは何だったのでしょう?

渡邉: 2000年に会社を設立したのですが、普通、IT企業と言えば、六本木や渋谷につくりますよね。ところが、私は何を勘違いしてしまったのか、浅草橋に会社を構えてしまったんです(笑)。

 

二宮: いわゆる下町ですね。

渡邉: そうなんです(笑)。ですから、誰もIT企業が浅草橋にあるなんてイメージしませんから、社員を募集してもなかなか集まらない。来たとしても、駅前の雰囲気で「ここは違うな」って言って、帰っちゃうんです。そこで、「未経験者OK」と採用の方針をかえました。そしたら、人が集まってきた。それも働いたことのないニートやフリーターばかりです。でも、彼らは皆、優秀なんですよ。非常に能力の高い人たちが大勢いたんです。

 

二宮: ニートやフリーターは、実は隠れた人材の宝庫だったと?

渡邉: そうなんです。逆に未経験で無知識の人も応募してきましたね。パソコンを少し操作してもらおうと思ったら、マウスをパソコンの画面に当て始めた人もいました(笑)。それくらい何も知らない人もいたんです。でも、そういう人こそ、一生懸命やるんです。経験もスキルもないから、とにかくやるしかない。マウスを画面に当てた彼は今、弊社で立派にエンジニアとして働いています。

 

二宮: やればできるのに、そのチャンスがなかっただけのことだと?

渡邉: そうなんです。ですから、ニートだろうとフリーターだろうと、やる気がある人なら、分け隔てなく採用しようと。それが、「就労困難者」を積極的に採用するようになったきっかけです。

 

 あるべき社会の姿を目指して

 

二宮: 障がい者の雇用も積極的に行なっていますね。

渡邉: はい。特に国には障がい者として認定されず、「障害者手帳」を持つことができない軽度の知的障がいの人たちや、精神疾患の方々積極的に採用しています。

 

二宮: そのきっかけは?

渡邉: 「障害者雇用率制度」によって、企業は決められた割合の障がい者を採用することが義務付けられています。ですから、「障害者手帳」があれば、就職のチャンスもあるわけです。ところが、「障害者手帳」が認可されない程度の軽い障がいの人たちは、「健常者」として扱われますから、そうした優遇もされません。そうすると、さらに就職することは難しいんです。

 

二宮: なるほど。そうした人たちの存在は無視されがちですが、社長はそこに救いの手を差し伸べたわけですね。

渡邉: 確かに、いろいろと大変なことはあります。でも、それが普通の社会だと思うんです。WHO(世界保健機関)に寄れば、世界の6人に1人が障がい者だと。それだけ大きな割合を占めているのですから、その人たちと共存していくのが本来あるべき社会の姿です。

 

(第2回につづく)

 

渡邉幸義(わたなべ・ゆきよし)プロフィール>

1963年、静岡県生まれ。武蔵工業大学(現東京都市大学)出身。1986年、日本ディジタルイクイップメント株式会社(現日本ヒューレット・パッカード株式会社)入社。2000年に株式会社アイエスエフネット会社を設立した。現在は全国に35拠点、海外6カ国で事業を展開している。2010年、特定非営利活動法人Future Dream Achievementを設立し、「NIPPON IT チャリティ駅伝」を支援するなど、就労困難者のサポート活動を行なっている。

アイエスエフネットグループ http://www.isfnet.co.jp/


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