第1回 澤田智洋(ゆるスポーツ)「スポーツが繋ぐ無限の可能性」

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1612bluetug「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。様々な業界からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長との語らいを通して、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。

 今回、登場するのは、澤田智洋さん。スポーツや福祉のビジネスプロデュースを数多く手掛け、世界ゆるスポーツ協会のトータルプロデューサーとしても活躍中です。ゆるスポーツをきっかけに広がるダイバーシティな社会とは――。

 

 一番苦手なものがスポーツだった

 

二宮: 澤田さんは世界ゆるスポーツ協会のトータルプロデューサーを務めています。バランスボールを使用して行う「真珠サッカー」、手にハンドソープを付けてプレーする「ハンドソープボール」など、ゆるスポという着眼点が非常に斬新です。そもそも始められたきっかけを教えてください。

澤田: 実は、僕が世界で一番苦手なものがスポーツなんです。男性のステータスとしてスポーツは大きな武器ですよね。小学生の時は、それが顕著に表れる。スポーツができないと、ヒエラルキーの下のほうに置かれます。

 

二宮: 確かに運動神経の良い子がクラスでは人気者になりますよね。

澤田: ええ。クラスにT君という子がいました。彼は足が速いことで先生の評価も高かった。彼のステータスをスポーツが総合的に押し上げていたんです。

 

二宮: なるほど。失礼ですが澤田さんは、体育の成績は5段階で1とか2とか?

澤田: だいたい2ですね。T君は休み時間、校庭などを走っていて、キャーキャー言われているんです。一方、僕は窓際の席で、誰も望んでいない学級新聞を書いていました。その時に“あ、人生終わったな”と(笑)。僕とT君の間には、太くて流れの速い川が流れているなと。

 

二宮: ルビコン川みたいなものですね。越えるのは大変だ!

澤田: そうですね(笑)。本当に向こう岸にはいけないだろうみたいな。ゆるスポーツを始めたのは、そういうのもきっかけですね。

 

1612bluetug10二宮: 私は最初テレビで「ハンドソープボール」(写真)を見た時に思わずヒザを打ちました。普通だったらハンドボールは手に松脂を塗って滑らないようにする。それを逆に滑らせることによって、身体的な長所が失われるわけですよ。そこで各選手の力の差がなくなるという不思議な現象が起きていました。

澤田: 僕たちが大事にしていることは、「新しい不便」をデザインすることです。スポーツは不便を楽しむものではないでしょうか。例えばサッカーのフィールドプレーヤーは手を使ってはいけない。陸上競技も一見自由に見えて、トラックという枠が設けられて走行距離も限られている。ある種の不自由ですよね。人間は自由に動き回りたいのに、制限された中でどうやって100%以上の実力を出すか。それを楽しむことが、スポーツ。

 

今矢: 新しい不便というのは面白いコンセプトですね。

澤田: ある制約が課されると、他の能力が拡張することもあります。拡張の仕方も人によって違います。多様な「新しい不便」を開発していくことで、それに応じて新しい拡張をしていく人間がいるんじゃないかなと考えたんです。例えば舌でやるスポーツ「スカッチュ」の体験会で、車椅子の女性が優勝したんですよ。「スポーツで勝ったことがなかった」とおっしゃっていました。舌以外を使ってはいけないと不便を与えた時に、僕たちがあたふたした一方で彼女は逆に拡張したということ。

 

1612bluetug5今矢: それは素晴らしいことですね。現在、ゆるスポーツはどのくらいまで増えているのでしょうか?

澤田: 今は70種目ぐらいありますね。スポーツクリエイターという新しい職種をつくっていて、80人ぐらいいます。僕自身も創りますが、やるのは主にディレクションです。「こういう課題があるから、こういう方向性で創ってください」と提示して、あとは皆さんでやっていただくかたちです。

 

今矢: いろいろな業界のクリエイターがたくさんいるんですか?

澤田: そうですね。そもそも、日本には優秀な若手クリエイターが大勢います。ただ、どの業界も大御所やベテランがまだまだ元気です。クリエイター業界はイス取りゲームみたいなもので、大御所はイス取りゲームがうまい。若手がいつまでもイスに座れない状況です。顕著なのがお笑い業界でしょうか。そこで、広告、音楽、映像、などの優秀な若手クリエイターに声をかけ、「スポーツクリエイター」という新しい肩書をつけ、一緒にスポーツを創ってもらっています。スポーツクリエイター自体の数が少ないので、それぞれのPRにもすごくいいんです。皆さんがいろいろなスポーツを創って、メディアで話題になれば本業にも返ってきますから。

 

 競技普及とリンク

 

二宮: それはいい循環ですね。

澤田: スポーツを考えるときのプロセスとしては、ある課題に対して「スポーツを創ることで解決してくれませんか?」という依頼から始まります。それに対して適切なチームを作り、まずはアイデア出し会議を行います。いいアイデアが出たら、次はグラウンドやコートで試してみる。そこでまたルールをブラッシュアップして、どんどん一般参加者も入れてトライアルをしてスポーツとして煮詰めていく。

 

1612bluetug2二宮: 審判も必要になってきますね。

澤田: はい、審判も技術が必要です。ゆるスポーツなので、まずは審判が一番笑ってくださいとお願いしています。また、新しいスポーツに対してみんな戸惑っているので、なるべく褒めて、アドバイスをしてくださいと。子どものスポーツ体験会などと同じようなファシリテーション法ですね。

 

今矢: 仮に「ハンドソープボール」だと、どのような課題解決に提案されているのですか?

澤田: ハンドボールの元日本代表キャプテンの東俊介さんから「ハンドボールをもっと普及させたいんです」と話をいただいたんです。そこで「ゆるいハンドボールを創りましょう」と提案しました。ハンドボールは僕も怖いイメージがあって、鬼軍曹みたいな人たちがどんどん飛びかかってくるわけじゃないですか。そんな状況に自分を置きたくないなと思っちゃうんです。だから「ゆるく、ポップにしてやればいいんじゃないですか」と。ハンドソープボール体験会は、いつも2時間コースなんですが、前半1時間はハンドボール選手を呼んでハンドボール体験会をします。後半はハンドソープが出てきてハンドソープボール体験会。そうすると余韻としては、「ハンドボール面白かったね」となるんですよ。

 

二宮: なるほど。それでハンドボールの普及に繋がると。

澤田: そうなんです。「ハンドソープボール」はハンドボール普及のために作っています。あとは「ブラックホール卓球」も、卓球をゆるくポップにするというコンセプトで開発しました。中心をくり抜いたラケットを使用します。ブラックホール(穴)のサイズは4種類(S、M、L、LL)あるんです。シングルスの場合は、11点で1ゲーム先取。3点取るごとに穴が大きくなってくる。勝ちに近付くと穴はLLサイズになるので、接戦が生まれやすい構造になっています。

 

今矢: 上手い選手ほど、ガンガン抜けるんでしょうね。

澤田: プロの卓球選手もすごく抜けるんです。

 

二宮: 逆に言えば中心に当てる練習にもなりますよね。

澤田: その通りです。実は「ハンドソープボール」もハンドボール選手のトレーニングになるのでは、と言われています。海外のハンドボール選手は全身を使いながらシュートをするのですが、日本人は手や腕だけで投げているケースが多い。でもツルツルだと手だけでは持てないので、全身をうまく使わないといけません。

 

今矢: たとえば「ハンドソープボール」だと、ハンドボールよりも敷居が低く、みんなができる。そのスポーツにピンと来なかった人たちも、これをひとつのゲームとして楽しめることはすごくいいですね。

澤田: 「ハンドソープボール」もふだんはスポーツをやらない方が多く参加します。この競技は、今までのスポーツとは明らかに違う気配がしていますから。ただ、人によって「自分でもできるスポーツ」の捉え方は違うので、スポーツの多品種化は大事だと思っています。

 

 スポーツが処方箋

 

1612bluetug8今矢: そういうことですよね。今まで響かなかった人たちにどう響かせるかと。競技普及以外にもゆるスポーツを使ってやっている試みはありますか?

澤田: 最近は介護施設などに、リハビリの代わりになるスポーツを提供しています。「ゆるスポヘルスケア」というプロジェクトで、「トントンボイス相撲」「こたつホッケー」「打ち投げ花火」の3種目を創りました。「トントンボイス相撲」は声で力士を動かします。発声するとリハビリになります。「こたつホッケー」(写真)はテーブルにデジタル映像化したコートやパックでプレーするデジタルホッケー。腕の伸縮運動になります。「打ち投げ花火」は天井に映し出された的へ風船を当てるスポーツです。こちらは腕の上下運動に繋がります。どれも単調なリハビリだと続かないので、スポーツにしようと考えたんです。

 

今矢: リハビリのメニューがいくつかあるんですね。

澤田: そうですね。移動式サーカスみたいに、僕たちがスポーツを持って行くという感じです。ただ結構デジタル系が多く、コストがかかるので、アナログ系スポーツを創る重要性も感じています。

 

今矢: もし継続的に行うには施設に導入してもらわないといけないですもんね。

澤田: 最近ですとスポーツに限らず、「ゆる体操」も多く開発しています。例えば21世紀型のラジオ体操「ざっくり体操」というものがあります。ファシリテーターは、ざっくりとした指示だけ出すんです。「はい、肩~」「はい、回して~」「はい、ゆっくり~」などなど。それに対して、「肩」と言われれば、各々の解釈で、回してもいいし、ねじってもひねってもいいよと。当然全員の動きが揃わないですが、それがいい。

 

二宮: でもやらされている普通の体操ではなくて、自分で考えることで頭の体操にもなりますよね。

今矢: 周りを見るとまた得られる情報があるんでしょうね。

澤田: そうなんです。お年寄りで足が動かない方は屈伸ができなくても、ざっくりとした指示ならそれなりにできることはあります。要は自由度をある程度あげることで、「自分だけできない」という負の感情を逃しています。

 

1612bluetug7二宮: 一口にスポーツとは言っても、1位を狙うエリートスポーツばかりではない。定義は少しばかり曖昧にした方がいいかもしれませんね。

澤田: スポーツは超多面体だと思っていて、僕らが見ている面って限られているんですが、裏側を覗いてみたらいろいろな顔がある。それがすごく面白い。例えば僕らはスポーツを「楽しい新薬」と捉えています。それは、フィジカル、メンタル、ソーシャルの症状を解消してくれる新薬。そこで、ゆるスポーツを薬のように処方する施設を作りたいと思っています。「スポーツホスピタル構想」というプロジェクトとして走り始めています。

 

今矢: それは面白いですね。

澤田: 例えば、スポーツを処方するドクターをアスリートにお願いすれば、セカンドキャリアにも繋がるかもしれない。患者さんも、別の患者さんのために新しいスポーツを創ってもいい。いろいろな関係が生まれるといいなと。スポーツを通じた「関係創生」ですね。関係を創生するにあたっては、スポーツが適しています。人と人の距離を短時間でぐっと縮めてくれる。本当にスポーツはすごい。僕にとってスポーツは世界で一番苦手なんですが、世界で一番尊敬しているものでもあります。

 

1612bluetugpf澤田智洋(さわだ・ともひろ)プロフィール>

1981年7月14日生まれ。コピーライター/プロデューサー。スポーツや福祉のビジネスプロデュースを多く手掛ける。世界ゆるスポーツ協会代表。義足女性のファッションショー「切断ヴィーナスショー」のプロデューサー。『R25』で漫画「キメゾー」連載中。

 

(構成・鼎談写真/杉浦泰介)

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