第329回 ゴロフキン対カネロ、パッキャオ対クロフォード、ゴンサレス対井上は実現するのか ~2017年世界ボクシング界のドリームファイト~  

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(写真:ゴロフキン対カネロをダラスのAT&Tスタジアムで挙行すれば6~8万人の大観衆が集まるだろう Photo By Getty Images for D'USSE)

(写真:ゴロフキン<中央>対カネロをダラスのAT&Tスタジアムで挙行すれば6~8万人の大観衆が集まるだろう Photo By Getty Images for D'USSE)

 ボクシングファンを興奮させるファイトが少なかった2016年が終わり、今年は一転して興味深い1年になりそうな予兆が見えている。

 

 3月4日にキース・サーマン(アメリカ)対ダニー・ガルシア(アメリカ)、3月18日にゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)対ダニエル・ジェイコブス(アメリカ)、4月29日にはアンソニー・ジョシュア(イギリス)対ウラディミール・クリチコ(ウクライナ)といった楽しみなカードがすでに決定した。

 

 多くのスター選手がキャリアの重要な時期にさしかかり、一方でアル・ヘイモンの“プレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)”は視聴率という明白な形で結果を出さなければいけない年。そんな状況だけに、今年は好カードが次々と実現することもあり得るだろう。

 

 そこで今回は、今年中に特にどうしても実現させて欲しい5つのドリームファイトをピックアップしてみたい。これらのバトルがすべて挙行されれば、2017年は間違いなくエキサイティングな1年になるはずである。

 

 最大の目玉カード

 

ミドル級

ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/36戦全勝(33KO))vs.サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ/48勝(34KO)1敗1分)

 

 現在のボクシング界で最大のカードがこの一戦であることは間違いない。23連続KOを続ける怪物王者ゴロフキンと、母国メキシコを中心に絶大な人気を誇るカネロ。稀有なスター性も備えた2人の激突は、ボクシングの範疇を超えた話題を集めることだろう。

 

 2015年5月のフロイド・メイウェザー(アメリカ)対マニー・パッキャオ(フィリピン)戦以降、ボクシングのペイパービュー(PPV)の売上数は総じて低迷してきた。プレミアケーブル局の予算削減に端を発したPPV興行の乱発、違法ストリーミングの浸透などがその原因。そんな中でも、ゴロフキン対カネロ戦だけは100~150万件の売り上げが保障されていると言っていい。

 

 それらの背景から考えても、2017年中にこの試合が行われるかどうかにはボクシング界にとって極めて重要な意味がある。

 

 昨春以降、カネロとゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)が露骨な時間稼ぎを続けていることにアメリカ国内でも批判は多い。ただ、先に延ばすほどカネロの勝機は膨らみ、ビジネス的にも旨みが出るのは紛れもない事実。そして、公言してきた通り、GBPは今夏についに引き金を引くのではないか。

 

 ゴロフキンが3月にジェイコブスを下し、カネロが5月の一戦(相手はメキシコのフリオ・セサール・チャベス(メキシコ)か、イギリスのビリー・ジョー・ソーンダース?)をクリアすれば、もう対戦回避の口実は残されていない。2017年9月17日、場所はラスベガスかテキサスのAT&Tスタジアム――。全世界のスポーツファンの視線がここで再びボクシング界に注がれることになる。

 

(写真:ヘビー級復興のため、ワイルダーとジョシュアの激突は欠かせない Photo By Ryan Hafey / Premier Boxing Champions)

(写真:ヘビー級復興のため、ワイルダー<左>とジョシュアの激突は欠かせない Photo By Ryan Hafey / Premier Boxing Champions)

 最重量級は無敗王者の統一戦

 

ヘビー級

アンソニー・ジョシュア(イギリス/18戦全勝(18KO))vs.デオンテイ・ワイルダー(アメリカ/37戦全勝(36KO))

 

 五輪での金メダル、プロでも全勝全KOのまま世界タイトル奪取と、ジョシュアは順調にスター街道を歩んできた。4月29日のクリチコ戦に勝てば、ヘビー級待望の新たな支配者候補として注目を浴びるはずだ。サイズ、技術、パワー、スピード、喋りの上手さを備えたイギリスの万能派は、実際にワールドワイドなスーパースターになる要素も十分に備えているように思える。

 

 もっとも、大ベテランのクリチコはそう簡単に勝てる相手ではない。これまで8ラウンド以上を戦ったことがないジョシュアは、40歳を超えている老雄の壁を無事に突破できるか。この難関を乗り越えれば、ジョシュアとワイルダーの統一戦というメガファイトが見えてくる。

 

 ワイルダーもこれまで破格のパワーを誇示しており、無敗のパンチャー同士の米英決戦はインパクト十分。開催地がどちらであろうと、アメリカでも爆発的な話題を呼ぶことは確実だ。最重量級に久々に脚光が当たり、その勝者はヘビー級新時代の覇者として認められるはずである。

 

 スター街道を走るバルデス

 

フェザー級

オスカル・バルデス(メキシコ/21戦全勝(19KO))vs.ノニト・ドネア(フィリピン/37勝(24KO)4敗)

 

(写真:日本でもファンの多いドネア。バルデス戦が行われれば、正念場の一戦になる)

(写真:日本でもファンの多いドネア。バルデス戦が行われれば、正念場の一戦になる)

 ロンドン五輪後にトップランクはフェリックス・ヴェルデホ(プエルトリコ)、ホセ・ラミレス(アメリカ)、村田諒太(帝拳)など多くのオリンピアンと契約したが、いつしかバルデスに最大級の期待が寄せられるようになった。

 

 2016年はマティアス・アドリアン・ルエダ(アルゼンチン)、大沢宏晋(ロマンサジャパン)をそれぞれ圧倒的な形でストップし、初の王座奪取、初防衛に成功。26歳のバルデスは、今や軽量級最大のライジングスターとみなされるようになった。

 

 もっとも、そんなバルデスもまだトップクラスの選手と拳を交えた経験はない。そして、王者としてのテストマッチの相手として、同じトップランク傘下のドネアは適任と言えるのではないか。

 

 11月には苦手なサウスポーのジェシー・マグダレーノ(アメリカ)にアウトボックスされたドネアだが、1階級上とはいえ、タイプ的にはバルデスの方がやり易いはず。エリートクラスに残る最後のチャンスと言えるファイトで、“フィリピーノ・フラッシュ”は得意の左フックに渾身の力を込めて振り回してくるに違いない。

 

 この古豪を印象的な形で打ち破れば、アラムから強力な後押しを受けるバルデスに本格的なスター街道が見えてくる。ビッグイベントとは言えずとも、両者にとって意味が大きい一戦。実現すれば好内容も必至だけに、ぜひとも2017年中に挙行して欲しいマッチアップである。

 

 中量級の世代交代なるか

 

スーパーライト~ウェルター級

マニー・パッキャオ(フィリピン/58勝(38KO)6敗2分)vs.テレンス・クロフォード(アメリカ/30戦全勝(21KO))

 

(写真:クロフォード戦に踏み切れば、それはパッキャオにとって最後の大勝負になる Photo By Mikey WIlliams / TopRank)

(写真:クロフォード戦に踏み切れば、それはパッキャオにとって最後の大勝負になる Photo By Mikey WIlliams / TopRank)

 フィリピンの“戦う上院議員”は、2016年もティモシー・ブラッドリー、ジェシー・バルガス(ともにアメリカ)という2人の実力派に快勝して健在ぶりを示した。38歳になったばかりだが、実力はまだトップクラス。そんなパッキャオと、無敗のまま2階級を制したクロフォードの“世代交代戦”を望む声は根強い。

 

 今が旬のクロフォードと対戦すれば、アウトボックスされた上で、パッキャオが凄惨な形でKOされる可能性もある。賭け率も若き黒人王者が有利と出るのではないか。ただ、クロフォードの方にも、パッキャオ級の相手とはまだ対戦経験がない。これまでも不可能と思える壁を飛び越えてきたフィリピンの英雄に、“最後のミラクルを”と期待するファンは多いはずだ。

 

 パッキャオとクロフォードはどちらもトップランク社の所属。ボブ・アラムは“パッキャオ以降”のドル箱が欲しいだけに、この試合のマッチメークは一見すると容易なようにも思える。ただ、報道によると、パッキャオ陣営はクロフォード戦なら報酬は2000万ドル以上を要求しているという。

 

 回避したいファイトをオファーされた際、予め非現実的な条件を突きつけるのは現代のトップファイターの常套手段。だとすれば、本人はともかく、パッキャオ陣営はリスキーなスピードスターとの決戦は望んでいないのだろう。様々な思惑が入り乱れる中、今後、引退間近のヒーローがどんな路線を歩んでいくかに興味はそそられる。

 

 軽量級最大のビッグファイト

 

スーパーフライ級

ローマン・ゴンサレス(ニカラグア/46戦全勝(38KO))vs.井上尚弥(大橋/12戦全勝(10KO))

 

(写真:井上が真の意味で世界の舞台に躍り出る日は間近に迫っているのか)

(写真:井上が真の意味で世界の舞台に躍り出る日は間近に迫っているのか)

 日本のボクシングファンには説明不要の軽量級ビッグファイトである。ニカラグア人史上初の4階級制覇を果たした“パウンド・フォー・パウンド王者”と、23歳にして2階級を支配してきた“怪物”の対決。待望しているのはアジアの人間だけではなく、今では世界中のボクシングマニア垂涎の一戦になった。

 

 昨夏の時点で、日本のテレビ関係者は日本での開催希望を述べていた。やはりアジアで興行を打った方がビッグマネーが動くのは確かだが、例え日本で行われようと、米国内でもテレビ生中継されるはず。このスーパーフライ級統一戦にはそれだけの魅力と価値がある。

 

 ただ、悠長にタイミングを待っていられるほどの時間があるわけではない。 29歳になったゴンサレスには、昨年9月の同級での初戦(対カルロス・クアドラス(メキシコ))では若干の鈍りが感じられた。一方、井上陣営は逆にスーパーフライ級の体重を維持することの難しさに言及している。

 

 だとすれば、2人の直接対決の有効期限は恐らく今年いっぱいか。カウントダウンはもう始まっている。間違いなく歴史に刻まれる軽量級最大のビッグファイトを、関係者は絶対にお蔵入りにさせてはならない。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。

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