欧州王者レアル・マドリードの年間収入(2014-15シーズン)が約750億円(5億7700万ユーロ)であるのに対し、鹿島アントラーズのそれは約43億円(15年度)。規模的には大人と子供ほどの差がある。

 

 

 しかし、試合はやってみなければわからない。先のクラブW杯決勝で鹿島はあと一歩のところまでレアルを追い詰めた。後半15分にPKを決められ、同点に追いつかれるまでは「世界一」の称号は鹿島の側にあった。

 

 この試合を視察していた日本代表ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「審判の笛がああでなければセンセーショナルな結果になっていたかもしれない」と鹿島のサポーター並に悔しがっていた。

 

 だが、さすがはレアルである。PKはラッキーだったにせよ、延長戦でのFWクリスティアーノ・ロナウドの2ゴールは、日本流に言えば、“針の穴を通す”ものだった。130億円(移籍金)の価値を見せてもらった。

 

 それにしても、と思う。四半世紀前、鹿島のこの雄姿を、誰が想像し得ただろう。

 

 前身の住友金属はJSL2部に所属する弱小チームで、協会が89年10月に実施したプロ化の意思を問うアンケートには、「その意思なし」と返答している。

 

 ところがプロ化が現実味を帯びると前向きな姿勢に転じ、川淵三郎プロリーグ検討委員会委員長の「住金のプロ化を認めることは99.9%ないけれど、屋根の付いた1万5000人収容のサッカー専用スタジアムをつくるなら話はべつだ」との誘いに飛びつく。こうして住金は0.1%の難関を突破することに成功するわけである。

 

 ハード面の立役者がスタジアムならソフト面はジーコだ。

 

 70年代後半から80年代にかけてセレソン(ブラジル代表)の中心選手として活躍したジーコは引退後、本国でスポーツ大臣の要職に就いていたこともある。

 

 そのジーコが代理人を通して「日本で復帰したい」と伝えてきた時、最初に検討したのはJSL1部の古河電工だった。だが古河の返事は「NO」。一度は宙に浮いた話をまとめたのがJリーグ参入を目指す住金だった。

 

 古河と住金の、どちらが得をしたか。改めて説明する必要もないだろう。

 

 鹿島の選手たちが胸に刻む「献身、誠実、尊重」はジーコスピリットと呼ばれている。それはレアル戦でも十二分に発揮された。

 

 これぞジーコのレガシー、そして鹿島の財産である。

 

<この原稿は『漫画ゴラク』2016年1月27日号に掲載されたものです>

 


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