第6回 佐々木則夫(サッカー)「決意が本物かどうかで成長は決まる」
「スポーツの指導者から学ぶ」は、株式会社アライヴンとのタイアップコーナーです。スポーツ界の著名な指導者を招き、アライヴンの大井康之代表との対談を行い、指導論やチームマネジメント法などを伺います。
今回、登場するのは、女子サッカー日本代表「なでしこジャパン」を2011年ドイツW杯で世界一に導いた佐々木則夫さん。翌年のロンドン五輪、15年カナダW杯では準優勝の好成績を収めるなど、女子サッカー界の名将です。その指導哲学を語ります。
成功の反対は“やらないこと”
大井康之: 佐々木さんが残された名言の中でも「成功の反対は失敗ではなく、“やらないこと”だ」「宝くじは買わないと当たらない、シュートは打たないと入らない、ということ実証した」「選手が成長するかどうかは、技術や知識ではなく、“決意が本物かどうか”で決まるものだ」の3つはサッカーに限らず、全てに繋がることだと思います。
佐々木則夫: 「成功の反対は失敗ではなくて、“やらないこと”」。要はチャレンジをするということが大事なんです。サッカーは足で行うスポーツなので、ミスが多い。でも、そのミスにもチャレンジをした結果のものが含まれている。我々が単にミスを責めるだけでは、選手は成長しません。ミスの内容をしっかりと見極めなければいけないんです。
二宮清純: 指導者は結果だけでなくプロセスも見ていかないといけないというわけですね。大井社長も社員に対してはチャレンジしての失敗かどうかを見ていると?
大井: いや、そこまではちょっと見極められないですね(笑)。だからスポーツの指導者は本当にすごい。忍耐力があり、人の良いところを引き伸ばすことができる。社長職に就いても成功されるんじゃないかと思います。
佐々木: いやいや(笑)。サッカーの試合ではシュートを20本打っても、3本の相手チームが勝つということがあります。そういうスポーツでもあることを受け止めながら、戦況を見極めないといけません。結果ばかりが頭にあると、大事なことが見えなくなってしまうんです。
自分の目標をしっかり持つ
大井: なるほど。また「宝くじは買わないと当たらない、シュートは打たないと入らない、ということ実証した」もやはりチャレンジにつながりますね。
佐々木: ただチャレンジの中で、大事なポイントを忘れてしまうこともあるんですよ。
二宮: そのポイントとは?
佐々木: “目的は何か”ということです。ボールを動かして、美しいパスサッカーをやったとしても、目的は何かと言ったら、ゴールを決めることなんです。スタイルにこだわり過ぎて、本当の狙いを忘れてしまっては意味がない。「宝くじは買わないと当たらない」という言葉は、ある試合のハーフタイムで口にしました。いい流れではあるが、シュートへの意識が足りなかった。そこで「シュートは打たなきゃ、入らないだろ」と単純に言っても、あまりインパクトがない。だから印象付けるために「宝くじは買わないと当たらないだろ?」と。
二宮: わかりやすい例えですね。
佐々木: そうなんです。ところが、後半に入ってシュートは打ったものの、結局、点が入らなくて負けたんです。試合後に関西出身の選手から「ノリさん、宝くじはそう当たらへんで」と言われましたよ(笑)。
二宮: 確かに宝くじに当たった人はあまり見たことないですね。最後の「選手が成長するかどうかは、技術や知識ではなく、“決意が本物かどうか”で決まるものだ」についてはどうでしょう?
佐々木: サッカーが上手な子はたくさんいますが、やはり次もW杯を目指してやるという志ですかね。これは本当にすごく重要なこと。優勝した時の選手たちは厳しい環境でも、本当にサッカーが大好きで、“世界の舞台でサッカーがやりたい”という気持ちが強かった。“この子たちはすごいな”と感じましたね。
距離感を大事にする
二宮: アライヴンの販売員の方は女性が多いと伺いしました。そのあたりの気を遣っている点はありますか?
大井: あまりしゃべらないことですね。
二宮: コツはしゃべらない。それは聞き役に回ると?
大井: いえ。聞いているというよりも、元々、私は自分の意見を言葉に出すことが苦手なんです。でも逆にそれがかえって良かったかなとも思っています。何でも言葉にしてしまうと、その人が思っていることをすべて言葉で判断されますから。逆に話さないことによって、“あの人、何かすごいかもしれないな”と思わせることもできる。
二宮: なるほど。“ただモノじゃないな”と。それもテクニックですね。
大井: 私の場合はテクニックじゃないんですけどね。もし私が何でもペラペラ話す人だったら、この人はこんな人なんだと判断されて、もう終わりだと思っています。
二宮: 逆に全部読まれてもダメだと。
大井: 中身があれば、読まれてもいいんですけどね(笑)。
佐々木: でも演技することはあるでしょう。僕は選手たちの調子が良くない時にガツンと言いたい時も「どうなんだ今の?」と、言いたいことがたくさんあるように含ませるんです。「言ったら切りがないからお前ら考えろ!」と。
二宮: 怒っているポーズをしているわけですね。
佐々木: “こちらは沸点にいっているんだぞ”というぐらい訴える。僕も多くは語らないですよ。たとえば相談を受けても、「この相談は俺の範疇じゃないから」とはねつけることもあります。
二宮: それは選手から“冷たい”と思われませんか?
佐々木: すべて僕が対応できるわけではないですし、中途半端には関われませんからね。僕は長く1人と話をするというよりも、なるべく端的に話すようにはしています。選手たちは大会や合宿を経ていい雰囲気になっても、一度所属チームに戻るとぎこちなくなる時もあります。その時はある選手に「よく来てくれたな。こないだの試合も良かったぞ」と声掛けをしたり、朝会った時に「よく寝られただろう。頬についている線が取れてないぞ」とコミュニケーションを取ります。それは僕にとってすごく重要なことでしたね。
“神様ペレ”のサイン
二宮: ところで、佐々木さんは“サッカーの神様ペレ”が憧れだと伺いました。アライヴンはペレとアドバイザリー契約を結んでいましたが、そのきっかけは?
大井: 私が2008年にブラジルに行っている時に、知人を介して「一度ペレに会わせてもらえませんか」と頼んだら、「たまたま1日だけ空いているタイミングがあるから事務所に来るように」と言われたんです。せっかくだから、その時に「ウチと顧問契約をしてもらえないでしょうか?」とお願いしたら「いいですよ」って。その時はちょうど他の会社とも契約をしていない空白の期間だったようで、とてもラッキーでした。
二宮: 僕も一度インタビューをさせていただいたことがあります。佐々木さんはペレに会ったことは?
佐々木: サッカーを始めた頃から憧れていて、お会いしたくてしょうがなかった。中学2年の時、ペレが日本で試合がやる機会があったんです。その日の授業に全部出ていたら間に合わないので、給食が終わってからサッカー好きの友人と学校を抜け出して観戦に行きました。
大井: その後、お会いできたんですか?
佐々木: いえ。試合を見た後、ホテルに戻るだろうと思って、待っていたんですよ。
二宮: “出待ち”ですね。
佐々木: しかし、警備員に補導されて、あえなく帰宅です(笑)。でもなでしこジャパンの監督になった後、国際サッカー連盟の表彰式などでお会いすることができました。「いい試合だった」と言っていただいて、すごく感動しましたね。ある日のパーティーでは同じテーブルで食事することができました。その時には何を隠そうYシャツにサインをもらいましたよ。家宝にしています。ペレと契約を結んでいたなんて、本当に社長はすごいですね。
<佐々木則夫(ささき・のりお)プロフィール>
1958年5月24日、山形県生まれ。2007年に女子日本代表監督に就任すると、08年北京五輪で4位入賞を果たした。11年ドイツW杯では日本を男女通じて初優勝に導き、11年度のFIFA女子世界年間最優秀監督賞にも輝いた。12年ロンドン五輪では銀メダル、15年カナダW杯では準優勝。16年に代表監督を退任した。現在は十文字学園女子大学副学長、大宮アルディージャのトータルアドバイザーを務める。
(写真/金澤智康、構成/杉浦泰介)