知人の映像作家、佐藤大輔さんが制作したサッカーサイト「レジェンドスタジアム」を見た。韓国で行われている20歳以下のW杯に出場している日本代表選手たちにインタビューをしたものなのだが、短い時間ながら非常に印象的なものに仕上がっている。中でもわたしが感慨深い思いにさせられたのは、京都のFW岩崎悠人だった。

 

 彼は、岡崎が憧れだという。

 

 なぜそれが感慨深いのか? 長く、日本のサッカー界は「自分たちの世代こそが新たな時代をつくる」と考えた世代の連続によって成り立ってきたからである。守旧派が一掃され、自分たちの世代に総入れ替えすればもっと強くなれる――思えば、かれこれ30年以上、選手たちのそんな声を聞いてきたような気がする。

 

 自分たちこそがこの国に生まれた特別な世代だと考える選手にとって、憧れの対象はあくまでも海外の選手。日本の先輩たちを見る目に、尊敬の気配を感じることはあまりなかった。

 

 だが、岩崎は岡崎が憧れだという。そして、若いころの岡崎がゴン中山に憧れていたのは、有名な話である。

 

 つまり、ひょっとすると日本サッカー史上初めて、憧れが3代続くという状況が生まれているのではないか――そう考えると、たまらなくうれしくなってしまったのだ。

 

 憧れを連続させるためには、代表チームが結果を残し続けなければならない。国際舞台で結果を出し続けなければならない。中山はW杯でゴールを決めた最初の日本人として岡崎の胸に印象を残し、岡崎は代表と海外でゴールを量産することで岩崎の胸に憧れを刻みつけた。サッカー大国では当たり前でも、日本ではなかった憧れの連鎖が、ついに実現していたのだ。

 

 だが、94年のW杯米国大会で24年ぶりの優勝を遂げるまで、ブラジル代表の面々は優勝を知る世代からの批判にさらされ、反発を隠さない選手もいた。ブラジルほどの大国であっても、勝ちから遠ざかれば連鎖は途切れる。憧れが代を超えるのは、簡単なことではない。

 

 それでも、野球や相撲に目を向ければ、簡単なことではないはずのことが脈々と続いていることにも気づかされる。元来、儒教精神と無縁ではない日本では、先達を敬う気風は欧米よりも強いはず。となれば、極端な暗黒時代に自ら突っ込まない限り、日本のサッカー界にも、岩崎に憧れる4代目が出現する可能性は十分にあると言っていい。

 

 憧れの対象となった選手が活躍すれば、見上げる世代が目指す舞台も高くなる。岡崎、本田、長友、内田、長谷部……近年の日本代表を引っ張ってきた選手の多くにとって、今季は残念なシーズンだったはず。だが、老け込むにはまだ早い。次代の伸びしろをさらに大きなものとするためにも、もう一花咲かせてもらいたい。

 

<この原稿は17年5月25日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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