指示された路上の白線の上を真っすぐ歩けない。日本風に言えば千鳥足だ。呂律も回らず、目はうつろ。挙げ句、後ろ手に手錠をかけられ警察に連行される姿は哀れの極みだった。

 

 この男、誰あろうゴルフ界のレジェンド、タイガー・ウッズである。さる5月29日、飲酒運転か薬物使用の疑いでフロリダ州パームビーチ郡の警察に逮捕された。これについてタイガーは「アルコールは摂取していない。処方された複数の薬を服用したところ、予想もしなかった強い副作用が出てしまった」と飲酒や薬物使用の疑いについては否定している。罪状認否は7月5日に予定されている。

 

 タイガーが腰痛の原因とされてきた椎間板を取り除く手術を行ったのは、この4月のこと。全治6カ月の診断を受け、リハビリの最中だった。タイガーの証言を信じれば、痛み止めの薬を併用したところ、思いがけず酩酊状態に陥ってしまったということになる。

 

 だが、これを額面通りに受け止めるわけにはいかない。タイガーには09年に自宅近くで衝突事故を起こした“前科”がある。この時は自損事故として処理されたが、エリン夫人(10年に離婚)の証言により、運転前に飲酒していたことが明らかになった。

 

 さはさりながら、である。警察が車載カメラで撮影した逮捕に至るまでの過程を公表するのは、少々やり過ぎではないか。まるでさらし者である。

 

 タイガーといえば、8年前の不倫スキャンダルが思い返される。愛人が19人もいたとおもしろおかしく報じられた。12人の水着写真による「不倫カレンダー」まで登場する始末。これによりタイガーは家庭もスポンサーも失った。

 

 メディアがタイガー叩きに血道を上げるなか、ひとり正論を吐いたのがCBS解説者のデイビッド・フェハーティだ。「彼は民間人だ。(愛人騒動を起こした民主党元上院議員の)ジョン・エドワーズとは違う。米国国民の税金は彼には使われていない」

 

 一連の不倫スキャンダルと今回の逮捕劇は性格を異にする。飲酒運転もしくは薬物使用の事実が明らかになればタイガーは罰せられるべきだ。とはいえ、かつて持ち上げるだけ持ち上げたヒーローを“溺れる犬は石もて打て”とばかりに集中砲火を浴びせる米国流には違和感を覚える。バッシングは茶の間の娯楽ではないはずだ。

 

<この原稿は2017年6月7日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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