敵の敵は味方である。逆に言えば敵の味方は敵である。こうした国家間関係が中東情勢をより複雑なものにしている。

 

 2022年にサッカーW杯を開催することが決定しているカタールがサウジアラビア、エジプトなどのイスラム7カ国から断交を宣言された。6月6日にはドナルド・トランプ米大統領が「テロの恐怖が終わりに向かう第一歩になる」とツイッターでカタール包囲網を支持した。

 

 トランプ政権が敵視するイランはカタールと海底でガス田がつながっていることもあり関係が深い。ともに地域大国のサウジがイスラム教スンニ派であるのに対しイランはシーア派。しかもアラブ人とペルシャ人ということもあり、元々ソリが合わない。世界最大級の液化天然ガス輸出国のカタールとはいえ、面積は秋田県程度。兵糧攻めはこたえる。

 

 勇み足をおかしたのはドイツサッカー連盟だ。「テロを支援する国でW杯を開催するべきではない」。テロ支援国家のレッテル貼りは死刑宣告にも等しい。断言する以上は証拠を示すべきだ。トランプの尻馬に乗った発言は混乱を拡大しかねない。

 

 とはいえドイツ連盟の苛立ちもわからないではない。イスラム圏初となるW杯開催は10年のFIFA理事会で決定したが、未だに選考過程は詳らかではない。W杯開催国・地域を選定するにあたり、FIFAは低・中・高3段階で候補地を評価した。リスク評価において一番いいのは低、悪いのは高だ。立候補したのは日本、カタール、米国など。日本と米国は低が9つで中がひとつ。カタールは低がひとつで中が7つ、高も2つあった。にもかかわらず勝ったのはカタール。いったいなんのための調査報告書だったのか。

 

 FIFAには準備期間にあと12年もある、何とかなるだろうとの楽観があったのではないか。同国には中東最大の米軍基地もあり、安全は確保されていると。それがテロ支援国家とは、目まいがしそうである。米軍基地を抱えるテロ支援国家というのも不思議な話だ。

 

 もっともイスラム7カ国のカタールに対する断交がこのまま続くとは思えない。おそらくは頃合いを見計らって手打ちとなるだろう。しかし、その後に待ち受ける第2、第3の政情リスクは人知の及ぶところではない。FIFAは最悪の状況下での最善の選択肢、すなわち“隠れ代替地”も検討しておくべきだろう。

 

<この原稿は2017年6月14日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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