率直なところ、前半が終わった段階での心境は、同情心と暗澹たる気持ちで真っ二つ、といったところだった。

 

 同情したのはシリアについて。これほど素晴らしいポテンシャルを持ちながらグループの4位に低迷し、W杯本大会が相当に厳しい状況にあるのは、彼らがホームで戦えないことに大きな原因がある。いつかは、いや、できることならばできるだけ近い将来、地元の大声援を受けて戦うシリアと、しびれるような真剣勝負をしてみたい。強く強くそう思った。

 

 暗澹たる気持ちについては……特に説明する必要もないだろう。いくらオフの期間についた垢を落とす意味合いの強い試合とはいえ、あまりにも錆び付いてしまっている部分の多かったことか。大迫のポストプレー、原口の積極性など、個々の部分では光るところもあったが、チームとしての出来は低調そのものだった。

 

 だが、そうした空気を一変させたのが後半途中からピッチに入った乾だった。

 

 わたしは、サッカー選手の才能と調子はトラップに表れる、と考える人間なのだが、この日の乾が見せたトラップはそのほとんどが極上のレベルにあった。それこそ、世界のスーパースターと比較しても何ら遜色がないほどに。

 

 どんなボールでもピタリとコントロールする彼が左サイドに入ったことで、日本の攻撃は突如としてリズムを取り戻した。後半20分あたりからワンサイドでシリアを押し込むことができるようになったのは、間違いなく乾と、そして前半からいい動きを見せていた大迫の功績である。

 

 一方で、トラップから調子を判断した場合、ちょっと心配なのが岡崎である。

 

 もとより彼は決してテクニシャンタイプではないし、トラップにしても乾あたりに比べればだいぶ硬質な部分はある。だが、ゴール前のここぞという場面では落ち着きはらってコントロールできるのが、岡崎という選手の特長でもあった。

 

 だが、この日の彼は、ゴール前で乾から受けた絶妙なパスをコントロールしきれず、好機を逸してしまった。レスターでの今季が不本意な形で終わってしまっただけに、何とかいいイメージをもって本番に入ってもらいたかったのだが、このままではちょっと難しいかもしれない。

 

 ともあれ、前半の早い段階で香川とビジョンを失ってしまったチームは、後半に入って何とか立て直しに成功はした。仮に香川の肩のケガが深刻なものだったとしても、チームの未来に暗雲が立ち込めるわけではない。ホームで勝てなかったことを問題視する声もあるだろうが、わたしは、なかなかに意味深いテストマッチだった、と思う。

 

<この原稿は17年6月9日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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